signalの続き的な何か。
***

あれから何日経ったのか。
すっかり忘れかけて日常を取り戻したある日の出来事。
もう一度、出会うことになるなんて微塵も考えていなかった。

「あ!これ可愛い」

街中のショーウィンドウに思わず魅入って立ち止る。
出かける場所などなくとも可愛らしい服を見れば欲しくなってしまうのが年頃の乙女というもの。
あれこれ想像しながら気に入った組み合わせを眺めて。
お財布の中身と相談しながらううん、と唸っていると不意に後ろから声が掛かった。

「おい」

不機嫌そうな、乱暴な、けれど―――どこか品の良い声。
反射するようにゆっくりと振り向けば。
つい先日出逢ったばかりの男が立っていた。

「あー!また会ったわね!あんた!」

印象強いその人は忘れようにもなかなか忘れ難い。
思わず指を指して声を上げれば、元々悪い目つきが更に釣り上がる。

「…何やってるんだ?」
「え…と、服!可愛いから見てたのよ」

眉根の寄った仕草に喉元まで出かかった文句を飲み込んで。

「あ、あなたこそこんなところで何やってるのよ」
「…別に」

偶々通りかかっただけだ、と言われて周りへ視線を動かした。

「ひとり…?」

眉を顰めて首を傾げれば返されるのは沈黙。

(ここショッピングモールなのにひとりって相当変よ…?)
(もしかして…彼女とデート、とか?)

気まずく沈黙が流れる中、ちらりと上目遣いに見上げれば。
ふ、と口角を上がりくっく、と喉で笑うコブラ。

「あぁ…気になってたのか?」
「な!?そ、そんなわけ、ないでしょ」

心の中で過った疑問を突かれて咄嗟に否定しようと漏れた声は予想以上に上擦った。
頬に集まる熱を意識して悟られないように顔を逸らす。

「こ、この間、言ってたじゃない。いつも側で支えてくれる子がいるって」

きょとん、と目を丸くして。
しばらく無表情になったかと思えば、大層愉しそうに笑い出した。

「結局気になってるんじゃねぇか」
「ちがっ」

言い返そうと、キッと睨んでもその愉しげな表情が変わることはなく。
忌々しげに見上げると、視界の端ににょろり、と蠢く何かが見えた。

「な、にか出てるわよ?」
「ん?あ」

刹那、先ほどとは全く別の、柔らかい笑みが浮かべられる。
あまりにも優しそうに、微笑んだことに驚いて。
言葉を失って、ただ視線だけ外せずにいた。

「俺のこと知りてぇの?」

含む様な言い方。
からかうような、試すような言葉に思わず詰まった言葉を無理矢理吐き出す。

「〜〜〜っ…なにその言い方っ!」
「は、素直じゃねぇ奴」
「もう知らないっ」

くっく、と喉で笑う声を背に勢いよく身体を反転させて。
足早にその場を去った。
その後ろ姿を眺めながら鞄に視線を向けて。

「飽きねぇやつ…なぁ?」

愛らしいその頭を撫でて。
気持良さそうに捻った身体に手を滑らせる。

「だめだろ、勝手に鞄に入ったら」


fin.
***
signalの続き的な何か。


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