認めない。
認めたくない。
ちょっと見た目が良くて、ちょっと背が高くて、ちょっとだけ親切だとか関係ない。
ただ、謎の多そうなこの男に興味を持っただけ。
断じて心の内を渦巻くこの感情とは直結したりなんかしない。
絶対に―――。
「なんだ、嫉妬か?」
にやり、と意地悪そうに目を細めて彼は笑った。
「は、はぁ!?自惚れないでよね!」
思わず反射的に口から出た言葉に後悔する。
(これじゃ本当にやきもち妬いてるみたいじゃない…!)
上がってくる熱を自覚しながらふるふると首を振って赤く染まる頬を懸命に下げようと試みた。
「その割には顔真っ赤だな」
大層楽しげに目を細めてくっく、と喉を鳴らして笑う。
(こいつ本当にばかだな…聞こえてるって言ってるのによ)
「な、なによ…これは…その」
言葉に詰まりながらも言い訳を紡ぎ出す声に小さく溜息をついて。
どか、といつものベンチへ腰掛けた。
「まぁ、いいけど」
「な、によ…それ」
(―――どうせ、私に興味なんてないわけね)
心の声か、声に出ていた音か、判断しかねて顔を覗けば泣きそうな、悔しそうな表情に目を奪われる。
「お前―――」
その感情を何と呼ぶのかわかっているのか。
感情に素直で思っていることが表情に出る変な女。
心の声など聞かなくても伝わってくる温かい想い。
その奥底に潜む悲痛な響き。
「なによ」
恨みがましそうに睨みあげてくる姿は何故か可愛らしくて思わず苦笑した。
(―――わかってねぇか)
「俺は認めた女としか口利かねぇから安心しとけよ」
「―――っ…だから好きじゃないって言ってるでしょ!!」
(やれやれ…飽きない女だな)
溜息ひとつ。
ひとり寂しく待っている愛おしい存在の元へ帰ろうと腰を上げる。
「…またな」
軽く手を上げて振り向けば夕陽に混じるような朱に染めた頬が視界の端に映った。
その姿に再び口角を上げて。
次に出会う時を胸の内で誓う。
fin.
***
motive:(行為の)動機,動因,誘因,刺激,(必ずしも明確でない)真意,目的(of,for..)
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