distanceの前話的な何か。
***

「あなたって絶対女の子に嫌われるタイプでしょ!」

金糸の髪を靡かせて、甘い匂いのクレープを片手にルーシィは、強く言い放った。
何度目かの遭遇。
お互いの連絡先なんて未だ知らず、それでも出会ってしまえば自然と二人並んで歩く。
場所は決まっていつもの公園。
ベンチに腰掛けて欠伸をひとつ。

「なんだそれ、そんなことねぇよ」
「うそだー」

面倒そうに答えても相手は気にする風もなくけらけらと笑った。

(…変な女)

喜怒哀楽が激しいというのか、楽しそうに笑う姿が決して嫌ではない。
ただ気になるのは、楽しそうに笑う奥でどこか寂しそうな声が聞こえてくるということ。

「俺にだっていつも側にいるやつがいんだよ」

頻繁に鞄の中へ潜り込んでは側にいたがる愛しい存在を想い浮かべてそう一言。
思い出すだけで心が温かくなる存在。
きょとん、と目を丸くして見つめてくる瞳にはた、と気付いて無意識に緩んだ気持ちを隠すようにふい、と視線を逸らす。

「…どんな子?」

からかう様子もなく首を傾げて訊ねてくる好奇心。
悲哀の音が高まった気がした。

「あ?あー…」

先ほどまでの愉しげな雰囲気が消えたことに微かに戸惑って言葉を濁して。
関係ない、と口を開こうとしたが見つめてくる瞳に抗う気が起きずにぽつぽつと繋げる。

「…愛嬌があって…いつも側にいたがって…ずっと、昔から俺を支えてくれてる…奴」

元より他人に気持ちを話すことなど滅多にないにも関わらず、言葉を選んで…。
まるで告白している気分に陥った。

(なんで俺こんなこと言ってんだ…?)

熱が上がるにつれて徐々に冷静さを取り戻す。
親しくもない相手に、何故。
否、親しくないから、か。

「……ふぅん」

ふむ、と得てして納得したように相槌を返すルーシィ。
眉を顰めて睨めばくすり、と笑みが零された。

「なんだよ」
「んー…意外と優しいんだなぁって思ってさ」

ふふ、と目を細めて笑う姿が何故か儚く見えて。
この気持ちが意味するものなんて想像もつかない。
けれど、小さく警鐘するこの音がひどく心地好くて。
ゆっくりと重ねた手がぴくり、と震える。
静かに目を閉じて、その音だけに耳を傾けた。


fin.
***
signal:信号,合図(to do)行動のきっかけ,動機.

切甘をテーマに…やってみた第二弾.

とりあえずキュベリオス大好きなこぶらが愛おしくて仕方ない。
distanceの前話的な何か。


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