「ルーシィ、次はこれ行こうよ!」
そう言ってナツとハッピーが意気揚々と差し出して来た依頼書を見てルーシィは沈黙。
何せ非常に見覚えのある内容だったからだ。
「ね、懐かしいでしょ」
「本の破棄で20万J……凄く懐かしいわね」
「またメイドやってもらおうぜ!」
「やらんわ!」
『今度は2人で……』
「とか言って結局着いて来るんだよねルーシィって」
「だって、本の破棄で20万だなんて破格じゃない。今月家賃危ないのよ」
「ルーシィは毎月家賃危ない気がするよ」
「ハッピー、それは言わない約束よ」
そんな風に道中歩いていると、依頼主の屋敷が見えて来た。
なかなか立派な屋敷である。
嫌なデジャヴュがルーシィの頭の中を過ぎった。
ナツが大声で門の前で叫ぶと、使用人が出迎えてくれた。
「遠い所ようこそおいで下さいました」
今回の依頼主は学者で、柔和そうな老人だった。
依頼主の顔を見るやルーシィは何かを思い出したように声を挙げる。
「あなたが今回の依頼主だったんですか!」
「ルーシィ、知り合いか?」
「違うわよ。新聞に載っていたから知ってるだけ。有名な学者さんよ」
今回の依頼主は著名な学者である事から、この屋敷も彼の持ち家なのだろうという確率が高い。
以前のような事を警戒していたルーシィは、どうやら杞憂に終わりそうだとホッと一息。
「依頼内容は本の破棄。丘の上のイバルー屋敷からある本を破棄してもらいたいのです」
「イバルーって……名前までそっくりだわ」
その本は危険な魔法が封印されているらしく、一説によるとゼレフ書の悪魔だと言われているらしい。
魔法の危険性を知った依頼主はイバルーに本を手放すよう説得したが、彼は了解しなかったとの事。
そこで些か強行だがギルドに依頼したといういきさつだった。
「魔法が解放されれば町がどうなるかわかりません。一刻も早く処分せねば……」
「わかった。んなもんオレ達がさっさと片付けてやんよ!」
「ありがとうございます! ですがイバルー伯爵の邸宅は警備が厚く、安易に侵入出来ません。……まあ噂に名高い妖精の尻尾の魔導士の方々なので多分大丈夫だとは思いますが、依頼した身としてはやはりより安全に依頼を遂行して頂きたいのが心情です。こちらで衣装を用意しましたので、それに変装して侵入なさった方がよろしいかと」
「変装ってまさか……」
ルーシィは嫌な予感がした。
貴族の屋敷に侵入するのに1番適した格好、もはやあの衣装しか思いつかなかったのだ。
「メイド服と執事服をご用意させて頂きましたので、そちらに着替えてから出発なさって下さい」
「ああやっぱりー!」
お約束の展開に嘆くルーシィ。
やっぱりルーシィにはコスプレが醍醐味だねと、ハッピーが小馬鹿にしたように笑った。
「うーん、やっぱり何着てもあたしって似合っちゃうのよねぇ」
結局メイド服に着替えたルーシィ。
こうなりゃとことんやってやると、鏡の前で入念にチェックをしていた。
今回もバッチリきまっている。
「さすがルーシィ、ノリノリだね!」
「うっさい! ってか、今回はナツも変装するのよね?」
「あい、執事服だって依頼主の人が言ってたよ」
執事服のナツを思い浮かべてルーシィは顔を引きつらせる。
どう考えてもミスマッチだ。
お帰りなさいなさいませと恭しく頭を下げるナツを想像して、ルーシィとハッピーは大爆笑。
敬語が使えないだのそもそも服が似合わないだのと、散々な事を2人で言い合う。
「はあ、ナツに執事は無理があるわよ。せめてグレイだったら……」
「グレイが何だって?」
「執事ならナツよりグレイの方が似合って……へ?」
ナツの声がしたので振り返ると、そこには執事服を着たナツが立っていた。
ルーシィは思わず言葉を飲み込む。
絶対似合わないと思っていた執事の衣装が、意外にも様になっていたからだ。
堅苦しいだの動き辛いだのと文句を言うナツ。
伊達であろう眼鏡を掛け鏡の前で衣装を直す様子は、見た目だけなら立派な執事だった。
「よっしゃあ! いっちょやっか!」
「うわ、執事の格好でその口調って凄く違和感あるわ」
「っていうか2人共、その格好で屋敷まで行くつもり?」
「「あ……」」
着たは良いが敢え無くもう1度着替えるハメになってしまった。
仕切り直して屋敷の近くの茂みで着替える。
エバルー屋敷程はあるだろうか?
まずは潜入しなければならない。
「良い? 屋敷の人に見つかっても暴れちゃダメだからね。何食わぬ顔で通り過ぎるのよ」
「オイラは屋敷の外から探して見るよ」
「気をつけてね」
ハッピーと別れ、ナツとルーシィは屋敷を探す。
途中何人か使用人とすれ違ったが、どうにかやり過ごす事が出来た。
部屋を片っ端から調べていくと、書庫らしき部屋に辿り着く。
エバルー程ではないが、中々量が多い。
「うわ、こん中から探すのかよ……」
「文句言わない!」
作業に取り掛かろうとした所でナツが異変に気が付く。
何か不気味なニオイがしたのだ。
とっさにルーシィの腕を掴み後ろ手に庇う。
するとある1冊の本が黒く発光しているのが見えた。
「あの本、如何にもって感じじゃねぇか」
「ねぇ、もしかして封印が解け掛かってない? そしたら町が……」
「そうなる前に燃やしてやんよ!」
ナツが飛び掛かる。
だがそれと同時に本が黒い波動を放ち、ナツの体を吹き飛ばした。
振動で本棚が次々と倒れる。
たまらずルーシィはナツを連れて部屋を後にした。
「書庫の方が騒がしいな」
「どうしたんだ?」
屋敷の使用人達が書庫に集まり始める。
今この場に近寄らせるのは危険だと判断したルーシィは、咄嗟にアリエスを呼んでギャラリーを遠ざけた。
もこもこのウールの壁が書庫との間に壁を作る。
「我輩の本が!」
屋敷の主であろうイバルー伯爵が散々な書庫を見て嘆いていた。
ルーシィはイバルーに駆け寄ると使用人を避難させるよう指示を出す。
だがここで一悶着。
「メイドの分際で我輩に命令するな!」
「だぁー、今はそれ所じゃないのよ! 早く避難させないと……」
本の波動かナツの攻撃か、凄まじい風圧がルーシィ達を襲う。
ルーシィはイバルーもろとも吹っ飛ばされた。
「ルーシィが無様に吹っ飛んできた!」
「カッコイイ吹っ飛び方ってあるのかしら……」
合流したハッピーにツッコミを入れつつ、ルーシィはイバルーを探す。
イバルーは近くの瓦礫で埋もれていた。
自力で脱出すると、イバルーは癇癪を起こしたようにルーシィに当たり散らす。
「おいメイド、お前何をしでかしたんだ! さっさとどうにかせんか!」
「うわうっざ!!」
イバルーとルーシィのやり取りを聞いていたナツは、ニヤリと笑うと2人の元に着地する。
眼鏡をかけ直す動作があまりにナツには似つかわしくなくて、ルーシィは怪訝そうに眉を寄せた。
「そこの執事、どうやら魔法を使えるようだな。早く事態を収集させろ!」
イバルーの言葉を待っていましたとばかりにナツはニンマリと笑う。
そうしてふざけて彼はこう返した。
「かしこまりました。ゴシュジンサマ」
ナツは息を思い切り吸い込むと、手を筒状にして口元に持って行く。
咆哮をかます気だと判断したルーシィは、イバルーを引きずりその場から離れる。
その時ナツが炎を噴射させた。
「やり過ぎよぉー!!」
ルーシィの怒鳴り声と共に爆煙が辺りをもうもうと包み込む。
風が吹き、煙が消えた所を見てみれば案の定屋敷が跡形もなく吹っ飛んでいた。
イバルーが脱力して座り込んでいる。
ナツはケラケラと笑っていた。
「っていうか2人共、着てきた洋服一緒に燃えちゃったけどどうするの?」
「「えっ……?」」
ルーシィの服は勿論、ナツの服も吹っ飛ばされていた。
無事だったマフラーをハッピーが大事そうに抱えている。
探したがやはり、ナツの服は見つからなかった。
「あたしこれで帰るの嫌よ!」
「オレも何か嫌だ」
「2人共似合ってるから大丈夫だよ。……ぷぷぷ」
「「笑うなぁー!!」」
しかし健闘虚しく結局そのままの衣装でギルドに帰るハメになり、恥ずかしい思いをする事になってしまった。
勿論報酬は半額に減らされたという。
***
Love×Straight=??:うめ子さまより頂戴して参りました!
コスプレ投票の結果、メイドルーシィと執事ナツが一位。
僅差で、ネコ耳ペアルック。
コスプレって素敵。
メイドルーシィは言わずもがな可愛過ぎてどうにもしようがないです。
ナツの髪が下りてるのすごくスキ。
「ルーシィが無様に吹っ飛んできた!」
この台詞大好きですv
ナツルシーン盛り沢山で胸が苦しいほどに悶えそう。
うめ子さま、ありがとうございましたーーーっ!!!
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