「ルーシィ…ばかだろ?」

頬に赤みを帯びてはいるものの呆れ声で脱力するナツ。

「ば、ばかって、あんたに言われたくないわよ!」
「グレイにはすんなよ」
「へ?」
「俺だけにしろよ」

こういうことすんのは、と顔を上げたナツに先ほどの赤みはなく、真っ直ぐに、咎めるように鋭く睨んでくる。

「な、なんでそんなこと言われ…」
「俺がやだから」
「わ、わがまま」
「おう」
「だいたいグレイにするわけないでしょ」
「さっきギルドでしようとしてただろ」
「だからしてないってば!」
「じゃぁ、必要以上にくっついてんなよ」
「なんでよ」
「…変態がうつる」
「うつんないわよっ!」
「うるせぇな、俺がいやだからだっ」

さも当然のように言い切るその口調は強く、不機嫌さを隠しもしなかった。
う、と勢いに負けて後退りしそうになる足に、ぐ、と力を入れて言い返そうと口を開いた瞬間、

「ルーシィねぇとナツにぃがキスしてたーーー!!!」

大きく叫ばれる声が響き渡る。

「は!?」

二人して声のした方へ視線を向けると、子供が数人集まってこちらを眺めていた。

「ロメオ」

相手を認識すると興味を失ったのか平然とルーシィに向き直るナツ。
ルーシィは、未だぱくぱくと口を開いていて、再び言葉にならない声を発している。

「俺、ルーシィねぇがナツにぃにキスしてるとこ見たー!」
「俺もー」

子供たちが口々にそう言って指を指してきた。
頬を赤く染めて、くるり、と身体を逆へ動かしたルーシィを視界に捉えて、ナツは短く息を吐く。

「ばーか、お前らにはまだ早ぇよ」

立ち上がって、子供たちへそう放つと、ほら、とルーシィの腕を引っ張ってその場を離れる。
無言でルーシィの家に向かって歩いていくナツに手を引かれながらその後ろ姿を眺めて、ルーシィは街中でなんてことをしたんだろう、と羞恥心からくる考えで頭がいっぱいだった。

「ルーシィ」

不意にナツが呼ぶ。
ぴくり、と身体が震えたが、その言葉に反応出来ないでいると、溜息が聞こえてきた。

「…だいたいファーストキスってなんだよ」

逃げるほどのことか、と拗ねた口調で続ける。
「だ、だって…」
「ほんと、ばかだよなぁ」

はぁぁ、と大袈裟に吐き出される溜息を遠くに聞いていると、ぎゅ、と手が強く握られた。

「ナツ?」

ゆらゆら揺れる桜色の髪を眺めながら次の言葉を待つ。

「…俺とルーシィの仲じゃねぇか」

気にすんなよ、と吐き出された言葉は予想の範囲内であり、問題はそこではない、と強く思いながらも段々と仕方がない気がしてくるのだから不思議なものだ。

「…どんな仲よ」
「おんなじチームだろ?」
「チームは関係ない気がする」
「そーか?いいじゃねぇか別に」
「良くない」
「ねちっこい奴だな」

結局いつだってこの鈍感で無神経な男を許してしまう。
ルーシィにとっては重大な事件でもナツにとっては大したことはない。
そんなことは分かっていた。
それでも、人生で初めてのキスはもっと甘いものを想像していた。
ナツに気付かれないように小さく息を吐く。

(それでも、こんなデリカシーのない奴の側にいたいんだもんなぁ)

他の誰でもないナツだったから、許せるんだ。
ナツにとっては些細なことでもルーシィは大事にしたい。
ただそれだけ。
けれど、それだけでいいような気もする。
自分の中で、もやもやする感情を整理していると、ナツがぴたり、と立ち止って振り返った。

「ルーシィ?」

普段なら怒鳴って怒るのに、と眉根を寄せる。

「…なに?」
「まだ気にしてんのか?」

今度は呆れたようではなく、少しだけ心配そうに窺ってきた。

「…もういいよ」

真剣に見つめてくるその瞳には勝てない。
苦笑しながらナツを見返してルーシィは答える。

「…そんなに大事だったか?」

納得できないのか、怪訝な表情でそう問いかけてくるナツ。

(さっきまで気にもしていなかったくせに)

くすり、と笑みを零すと、何がおかしいんだと首を傾げた。

「あたしにとってはね」

もういいけど、という言葉は飲み込んで、視線を外す。

「ふぅん、やり直すか?」
「いいよ」
「…は?」
「いいよ、気にしないで」
「あ?あぁ」
「なによ」

普段から気の利いたことなんて言えないのだから気にしなくてもいいのに、なんて思いながら立ち止っているナツに並んで歩き出した。
一瞬遅れてナツが歩き出す。

「ありがとね、気にしてくれて」

にっこりと笑顔を向ければ、不服そうに口を尖らせたナツが見えた。

(このくらいがナツの精一杯だもんね。子どもと一緒なんだから)

なんて、能天気に考えているルーシィが、ナツよりも子供だったと気付いたのは家に帰り着いた後のことだった。


fin.
***
自覚天然ルーシィと無自覚本能的ナツ。
defeatはギルド公開でmistakeは街中子供前公開。
ギルドじゃありきたりだもんなぁ、と考えた末に街中公開執行で、となってここに至った次第にございます。
しかも半ばルーシィ自棄w
でも新しく書き直したのはギルド公開ちぅ。
しかもナツからの催促版。
はぁ、もっと簡潔に書けるようになりたいものです。
ゆーくさまへ相互リク【ナツルーで"ルーシィからの"初めてのチュウ@公開執行編】初期ver.でした。

ゆーく様のみお持ち帰り可。


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