「な、なんだ?」

唖然とその過ぎ去った方向を眺めていると、

「だめよ、ナツ。女の子はデリケートなんだから」

ミラジェーンが溜息ひとつ、苦笑する。

「追いかけてちゃんと謝ってきなさい」
「なんでだよ、」

ナツは、眉根を寄せて口を尖らせた。
俺は悪くねぇだろ、と首を傾げるが、

「ルーシィに口利いてもらえなくなっちゃってもいいの?」
「いやだ」

にっこりと笑顔で脅してくるミラジェーンに行ってらっしゃい、と送り出される。
しぶしぶとその言葉に従ってギルドを出るが、辺りを眺めてもルーシィの姿は既になかった。
くん、と鼻を鳴らして、慣れ親しんでいる残り香を追いかけてみる。

「……くそ、うろうろしてんなよな」

当てもなく街中を逃げ回るルーシィに悪態をつきながらも律儀に匂いを辿っていくナツ。
苛々と募る焦燥を抱いていると、ふいに、ルーシィが立ち止った気配を近くに感じた。
逃がすかと走り出して、ばっ、と曲がった角には、眼を見開いて驚くルーシィ。

「見つけた!」
「なっ、……こ、来ないでよーーー!!」

にか、と満面の笑みを浮かべて近寄ってくるナツを認識した途端に、再び逆方向へと逃げようとするが、

「逃げんなよ!」

走ろうと一歩踏み出したところで腕を掴まれる。

「離してー!」

ぶんぶん、と必死に腕を振り回してその手を振り払おうとするが、痛いほどにがっしりと掴まれている為、離れることはない。
諦めて抵抗をやめると、気まずそうに俯きながら身体を向ける。

「な、なによ」
「なんだよ、逃げることねぇだろ」
「逃げてなんか…」
「じゃぁ、なんだよ」
「それは、…だから…」

口を尖らせて拗ねたように問い詰めてくるナツに言葉を濁しながら。

(ナツにはわからないよ)

「なんだよ」

尚も言葉の先を促すその顔をキッ、と睨みあげた。

「あ、あれは事故なのよ!」
「はぁ?」
「だから、初めてだけど初めてじゃないっていうか…」
「何言ってんだ?」

大丈夫か、なんて失礼極まりないことを眉を顰めながら本気で心配してくるナツに憤りすら感じて。

(なんでこんなに鈍感なのよっ)
(そりゃ、あたしだってナツのことは好きだけど…)

初めてはもっと、こう、なんて夢見ていたのが馬鹿馬鹿しいことのようにも思えてくる。
段々ともやもやする感情が溢れだしてきて、

「〜〜〜っ」

ぐい、と反対の手で勢いよくナツのマフラーを引き寄せた。

「おわっ」

バランスを崩して身体が傾いたその唇へ自分の唇を押しあてる。
す、と離れるとナツはきょとん、と目を見開いて、ルーシィが触れた唇へと手を抑えた。

「な、え?」
「い、今のがファーストキスなんだから!」
「は?」
「だ、だから…」

状況の読めていないナツは、呆然とルーシィを眺める。
真っ直ぐに見つめられて、自分のしたことを思い返してルーシィは、急に恥ずかしくなった。
もじもじと、俯きながら声を出すが、繋がらない言葉の断片は意味を成さず、当然ながらナツには伝わらない。

「なんだよ」

(なんだよ、って…なに?ナツはなんにも思わないわけ?)

一生懸命に説明しているつもりのルーシィは、半ば意地になり、顔を上げてナツを睨む。
そして、がし、とその顔をしっかりと両手で押さえると、ゆっくりと今度は見せつけるように唇を乗せた。
離れ間際視界に映ったナツの真っ赤な顔に満足して、笑みを浮かべると、とん、と離れる。

「あたしだっていつもやられっ放しじゃないんだからね!」

誇らしげに指を指すと、今度ははっきりと言い切った。


》to be continue.
***
ルーシィからのちぅ。
ルーシィってバカだと思うんだ。
戦闘時に落とし穴作戦が成功するっていう発想がおちゃめさん。
そしてナツから逃げられるわけないよ。
なんてったって鼻がいいのだもの。


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