■ ロキ×ルーシィ
「ねぇ、ロキ。」
「ん? 何だい、ルーシィ?」
「あのね…ロキなんて大嫌い。」
そんな言葉を吐きながら、ルーシィの鳶色の瞳は落ち着きなくロキの顔と何もない虚空の間で彷徨っていた。
「…」
「…」
その言葉の『意味』を己の中で消化する間、無言でルーシィを見つめれば、薄く上気して、桜色に染まっていた頬が、みるみるうちに珊瑚のような紅色に変わっていく。
「…」
「…な、なによ、何か言いなさいよ!!」
逆切れ気味のルーシィの頬にそっと掌を添えれば、身体ごとぷいっと勢い良く逸らされた。そんな可愛いとしかいいようのない仕草にロキは薄く苦笑を刷いて。
「んーそうだね、僕もルーシィのこと、大嫌いだよ?」
「っ!!」
すると逸らされていた顔ががばりとロキの方へ向けられた。その瞳には紛れもない哀しみの色が浮かんでいる。
そんなルーシィの表情にわづかながらの愉悦を覚えて、ロキは我知らず口唇の端に小さな笑みを刷いた。
「ねぇ、ルーシィ。今日は何の日だかわかってはいるけれど。」
ルーシィの白い頬に添えた手から人差し指だけを伸ばし、淡く息を吐き出した口唇にそっと這わせる。桃色の口唇が震える気配に、心の中だけで小さな満足感を感じながら。
「この口唇から、僕のこと嫌いだなんて言葉が吐き出されるのは、結構我慢ならないんだよ?」
口唇から強引に咥内へと指を割り入れ、微かに緩んだそれへ、ありったけの『愛』をこめて己の口唇を押し付けた。
■ ガジル×レビィ
「ガジル。」
隣でぱらぱらと自分には到底理解できない文字列を眺めていたレビィが、突然ぱたりと書物を閉じたかと思うと、身を乗り出すように己の方へと身体ごと向き直った。
つまらなさそうにぼんやりと虚空を眺めていたガジルは、彼女の声に面倒くさそうに視線を上げた。
ひたりと二人の瞳が合わさると同時に、素敵な笑顔を浮かべてレビィが口唇を開く。
「私、ガジルのこと嫌いだよ?」
それと同時にぽっと頬を染め、可愛らしく視線を伏せた後、上目遣いにガジルの顔を覗き込むレビィの可愛さといったら、末代までの伝説になろうかという程の破壊力があったと、彼女と同じチームの片思いの彼は形容したが、生憎その可愛らしい表情を向けられた当の本人はというと、それよりも先に投げかけられた言葉の破壊力に、機能停止を起こしかけている。
「あの…ガジル?」
心配そうに、それでも頬を染めたまま問いかけるレビィに、周囲のものが彼女…ではなくフリーズした彼の方へ気の毒そうな、いっそ敗者を見送るような視線をちらちらと投げかけてはいるが、投げかけられた本人はというとかっつり固まったままで。
「あの、えっと、ガジル?」
ちょんちょんと指先でガジルを突くレビィに、傍観者その1であるルーシィははぁっと大きく嘆息すると、傍観者から助言者へ変身すべく固まった空気の中へと足を踏み入れた。
「ねぇ、レビィちゃん。きっとガジルには『エイプリルフール』なんて概念ないから。」
「え?」
「だからちゃんと説明して『解凍』してあげて。」
■ ラクサス×ミラ
※ちび世代設定でお願いします。
『今日は嘘ついても良い日なんだぞ』
ギルドの大人たちに教えられて、ラクサスはリサーナやエルフマンとじゃれ合っているミラの方へと足を進めた。一歩踏み出すごとに、『嘘、嘘、嘘』と呪文のように呟いて、彼女たちが自分に気付いて視線を投げかけてきたところで息を呑む。
「ラクサス、どうしたの?」
不思議そうな顔をしたリサーナをちろりと一瞥して、ミラの方をじっと見つめる。
無言で視線を投げかけるラクサスに、リサーナだけでなくエルフマンも不審げにラクサスを見遣ったが、そんな外野の視線など完璧に無視してラクサスは小さく息を吸い込んだ。
そしてかつりと固まる。
『嘘…そう、嘘。』
言うべき『嘘』が決定していないことに気付いて、ラクサスは息を吸い込んだまま途方に暮れた。
そんなラクサスの様子に気付いたのか、ミラは柔らかな笑みを浮かべて、息を吸い込んだまま立ち竦む彼の方へとそっと近付いた。
そしてさり気ない仕草でそっと彼の耳朶に口唇を寄せると、吐息とともに一言小さく囁く。
『ねぇ、大嫌い。』
その瞬間ラクサスの頬に朱が走り、離れていこうとしたミラの耳へ、反射的にお返しとばかりに。
「俺も大嫌いだ。」
ちらりと視界の隅を過ったミラの耳が、紅く色付いていることを認めて、ラクサスは満足そうに口唇を緩めた。
■ ジェラール×エルザ
「ルーシィがオイラにお腹いっぱいになるまで魚買ってくれるんだって!!」
「グレイが厚着してる!!」
「ナツが大人しく反省文書くって言ってるよ?」
「カナが禁酒するんだって。」
「レビィの身長が170cm越えたらしいぞ?」
「ジュビアがグレイのこと諦めるって言ってる。」
ギルドの中は、誰がどう考えても『嘘』であるような会話が、先刻から続いている。
だって今日は『エイプリルフール』
1年に1回、嘘を吐いてももいい日。
他愛もない嘘から、『それちょっとリアリティあり過ぎじゃね?』という嘘まで、ありとあらゆるバラエティに富んだものがギルドの中を笑いに染めていた。
「あい。ルーシィ、今日は全部ルーシィの奢り?」
「な、そんな訳ないでしょう!! そんな余裕何処にあるってーのよ!!」
「やだな、ルーシィ、今日はエイプリルフールだよ? 嘘吐いてもいい日だよ?」
「そうだぞルーシィ、空気読めねぇヤツだな?」
「アンタに言われたくないわ!!」
エルザの視線の先で繰り広げられるルーシィとゆかいな仲間たちの会話に、彼女は頬笑みを浮かべながらそっと瞳を伏せた。
今日は嘘を吐いてもいい。
「き…らい…だ。」
ぽつりと呟いたエルザの脳裏に浮かぶただ一人の影。
「きらいだ、きらいだ、きらいだ…」
喧噪の中に紛れた『嘘』。
繰り返せばそれが真実になるのだろうか。
「だい…き、らい。」
■ コブラ×ルーシィ
「アンタなんか大嫌いだからね!!」
そう言ってさっと身を翻すと、コブラの眼の前から金色の残像がストリートの向こうへと消えていった。
腕に巻きついたキュベリオスも疑問符を浮かべたまま、コブラと一緒の方へ視線を向けて、ゆらゆらと尻尾を揺らしている。
「あれは…一体何なんだ?」
理解不能な思いを口に出して呟けば、同意を示すようにキュベリオスがくいっと鎌首を擡げてコブラの首筋へと頭を擦りつけた。
その感触に無意識にキュベリオスの頭を撫でて、小さく微笑む。
『大嫌い』と叫んだその心の声が正反対の気持ちを伝えてきたのは、コブラの眼の…いや、耳の錯覚だろうか?
「生憎こちとら耳だけはいいんでね。」
にやりと平素から『眼つきが悪い』と評判の瞳を撓ませれば、キュベリオスがコブラの意を汲んだかのようにしゅるりと彼の腕に巻きついた。
とんとんと耳慣れた靴音と、少々乱れる呼吸音と…そして心臓の音。
雑踏の中でそれだけを拾い上げて、コブラはたんと地面を蹴った。
その音の主を掴まえて、『心の声』を訊くために。
***
夜来礼讚:稲荷ギンカ様よりセットでちゃっかり頂戴致しました。
「この口唇から、僕のこと嫌いだなんて言葉が吐き出されるのは、結構我慢ならないんだよ?」
という言葉に倒れそうなほどきゅん、としましたv
ロキさま素敵。
大人で紳士でちょっと、色々残念だけど…でもやっぱり格好良くて好き。
ガジルくんがぴしり、と固まっちゃうところがなんとも可愛らしくて、ルーシィのフォローがまた絶妙。
ラクミラの少年少女時代がまた…っ!
魔人ミラが耳赤くして「ねぇ、大嫌い」ってすごく可愛いと思う。
エルザの嘘に紛れた真実がちょっとだけ切なくてやっぱり好き。
コブラにはばれちゃうのに敢えて言ったのかv
あぁ…っ!やっぱり大好き!
ルーシィを迎えに行くところがとてもドストライクです!
わーん!
稲荷さまー!
ありがとうございますー!!
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