“今年はズバリ桜色! 桜の香りであなたの魅力もグッとUP!”
何となく訪れた香水屋で、たまたま見つけたこの香水。ルーシィは綺麗に包装されたそれを見て、どうして買ってしまったのか考えた。決して安い値段ではなかったのが更にルーシィを悩ませる。ああまた家賃がと溜め息。
ラッピングを外し、箱の中から香水を取り出す。謳い文句の通り、瓶は鮮やかな桜色。
シュッとプッシュし、香りを確かめる。甘いけれどどこか爽快な匂いだ。嫌いではない。
(そうよ、香りが気に入ったから買ったのよ! 別に桜色に反応したわけじゃないんだから!)
断じて色で買ったわけではないと否定し、ルーシィはぶんぶんと首を振った。
「何部屋で1人で首振ってんだ?」
「あい。端から見ててすごく気持ち悪いよルーシィ」
いきなり現れた不法侵入者に、挨拶とばかりに回し蹴りをお見舞いさせる。その際、机に置いておいた香水が床に落ち、カーペットの上を転がった。
ダメージから回復したナツが、転がった瓶を拾い上げる。
「何だコレ? 香水……? ルーシィこんなの買ってどうすんだ?」
「わかった! 何とかのパルファムとか言って戦うんでしょ。あのメェ〜ンって人みたいに」
「一緒にすんな!」
ハッピーに鋭いツッコミをしつつ、ナツから香水を奪い取る。別にやましい事はないのだが、何故かナツの目にはあまり触れさせたくなかった。
「ルーシィお金無いって言ってる割にこういうの買うんだね」
ハッピーのもっともな指摘に、ルーシィは顔を僅かに引き攣らせる。正直今回の買い物は、ルーシィですら買った理由を聞きたい位だった。
苦し紛れに適当な言い訳を返す。
「どっ、どうしても欲しかったの! すごく良い香りなんだから!」
「香り、ねぇ……」
含みを持った意味深なナツの物言いに、ルーシィは首を傾げる。瞬間、ナツがおもむろにルーシィの手を持つと手の甲に顔を近付けた。ルーシィは驚き手を引っ込めようとしたが、ナツはそれを許さない。
鼻をヒクヒクと動かしている辺り、どうやら彼は先程吹き掛けた香水の匂いを嗅いでいるようだった。「さくら、か?」
「そうだけど……」
「ふーん」
興味があるのか無いのか、ナツは曖昧な相槌を打つ。
傍らでハッピーがナツに「どうかしたの?」と尋ねた。
「いあ、ルーシィって桜が好きなのかなって思ってさ」
「好きだったら何なのよ?」
「あ、えっと……」
視線をルーシィから外し、らしくなくきまり悪そうに頭を掻きはじめるナツ。彼の頬はうっすら赤く、様子を見ていたルーシィまで恥ずかしくなってきた。
「なっ、何よう! はっきり言いなさいって!」
「いあ、その……。桜ってオレと同じ色だなぁって……」
ぼそぼそと呟いたような声だったがはっきり聞き取れたそれに、ルーシィは顔を赤く染めた。
「香りと色は関係ない!」と否定してしまえば良いのだが、何故かルーシィはそれが出来なかった。大方香りより色が気になって購入してしまった香水だからだろう。
「ナツもルーシィも、顔が桜みたいな色になってるよ」
1人冷静なハッピーが囃すように言葉を紡ぐ。そろそろ巻き舌で例の台詞を言うに違いない。
妙な空気が部屋を包む中、桜の甘い匂いだけがやたらと敏感に感じ取れたのだった。
***
愛してるを3回で:うめ子様より相互記念に頂戴致しました。
ハッピーが口元に手を当ててくふふ、と笑いながら『でぇきてる"ぅ』と小さく零す様がありありと描かれました。
桜といえばナツの髪。
香りと言えば動物的嗅覚なナツを連想するあたりもう末期です。
匂いは脳を刺激するので記憶に強く残したり、欲を膨らませる効果なんかがあったり…。
あー、想像力を掻き立てられます。
うめ子さま!
本当にありがとうございました!!
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