きゃあ、と一つ高い声がして、頬杖のまま視線を向ける。金髪の少女の腰に絡んだ酔っぱらいの腕が見えて、軽く溜息。

だが、それ以上何を思うでもない。
それもそのはず、腕の主は女だからだ。

「ルーシィは抱き心地いいよね〜〜〜〜」
「ちょ、ちょ、ちょっとカナ!?」

ルーシィに絡むカナを囲んで、女ばかりが集まったテーブルはきゃいきゃいと賑わっていた。セクハラ紛い――胸を揉んだり耳に息を吹き掛けたりと“紛い”かどうかかなりアヤシイが――の遊びで、ルーシィの反応を楽しんでいるらしい。

(……何やってんだか)

頬杖をつき直して、視線が外れた隙。
特有の空気の揺れを感じた瞬間、再び高い声がきゃあと響いてきて目を戻すと、

「ホントだね、いい抱き心地」

代わるがわるルーシィをハグしていた女達に混じって、栗色のたてがみが見えた。
まるで回ってきた順番通りとでもいう格好で、その腕に華奢な腰を抱き締めている。

(……何やって――)

もやっと体温が上がった。鉄製ジョッキの中で、ぶくりとコーラが沸騰する。

「触んなヨ」

スツールを蹴倒して、ロキを睨め付けた。周りにいた女達の方がぎょっとして、当人は涼しげに何のことととぼけて見せる。

「――返せ!」

足音を鳴らして額が当たりそうなくらいまで詰め寄り、ルーシィの腕を掴む。

「いつの間にナツのものになったの?」
「ええ!? 別にそんなんじゃ……」
「は、何言ってんだお前? オレのとか誰のとかねぇだろ、ルーシィなんだから」

嫌味のつもりが、予想外のカウンターをくらって二の句が継げない。
ナツはふんと鼻で息を吐いて、掴んだ腕を引き摺るように酒場から出て行った。

「……ぶはっ」
「カナ、笑わないでくれないかな……」
「だぁってさー。あんたが真正面からやられるとこ、初めて見た……くくくっ……」

顔を背けて笑い転げるカナを恨みながら、ロキ自身も眉を下げる。

(てか、ナツ……)
(言ってること、めちゃくちゃだよ?)

誰のものでもないと言いながら、まるで自分だけのもののような言い草だった。

――酷いよ、狡いよ。無意識のくせに。


「な・何よ、どこ行くのっ?」
「どこでも」
「どこでもって、ちょっ……」
「お前、オレ以外に触らせんなよ」
「え?」
「約束な」
「な……何言い出すのよ」
「約束しろって」
「てか“オレ以外に”って何!?」
「いいから約束しろって」

真剣な声色に思わず顎が縦に動く。
するとナツのまとう不機嫌な空気が少し緩んだが、何気なく一呼吸した途端、

「……チッ。ついてくんなよな」
「え、何?」
「何でもねぇ。……行くぞ!」

ぎゅうっとルーシィの右手を握り直す。

カナが残した酒のそれより、女達の化粧のそれより――どこまでもついてくる、甘ったるい残り香に腹が立った。

(……イライラすんなぁ)
(余計なもん連れてんなよ、ったく……)

――ウゼぇよ。オレだけがいーんだよ。


***
Absurd Lovers:ゆーく様よりなんとまさかの誕生日サプライズを頂きました。

大好きなナツルーロキv
ナツとロキのルーシィの取り合いがもう本当にヤバいです。
動物的に独占欲が強いところが本当素敵。
匂いに対して、というのが果てしなく良いと思います!

わーん!
ゆーくさまぁーーー!!!
愛してますーーーーっ!!!!

もう本当にありがとうございました(´;ω;`)


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