「……Sorry, would you care to hold?」
かかって来た外線の電話を受けたエンジェルは、受話器の向こうから流れ出した日本語以外の言語に一瞬ぱちぱちと瞬きした後、流暢な英語を口にして、問答無用でがっつりと保留ボタンを押した。
そしてきょろりと辺りを見回して、ぼんやりとこれまた日本語以外の言語が書かれている文献を眺めているコブラにぐいっとコードレスになっている受話器を押し付ける。
「電話だぞ?」
至近距離に突き付けられたモノにうっそりと眉を顰めて、コブラは睨み上げるように紙面からエンジェルへと視線を移した。その表情は最近業績右肩上がりの企業に勤める研究員というより、その辺の繁華街にたむろしているチンピラのそれだ。
しかしながらそんな彼の雰囲気に頓着することもなく、エンジェルは無理矢理コブラの掌に、白く小さな機械を押し付けると、白衣の裾を翻した。
『もう絶対に返すな』と語る背中を見送るコブラの手の中には、オルゴールを模した保留音を響かせる電話機のみ。
取り敢えず一般社会人としての常識を、わづかながらにも残していたコブラは、ぴっと保留ボタンを押して受話器を耳に押し当てた。
『Hello, this is ○○ speaking. I would like to talk with anyone〜』
突然耳に流れ込んできた日本語以外の言語に、コブラはひくりと頬を引き攣らせた。言葉もなく固まるコブラに、海の向こうから怒涛のような勢いで『言語の壁』が押し寄せる。
『Are you all right?』
ひとしきり捲し立てた後、しばしの間を置いて、無言のコブラを気遣うような言葉がラインを通じて届いた瞬間、彼はエンジェルと同じようにがっつりと保留ボタンを押した。
しかしながら彼の場合、彼女のときとは異なり、『一言もなく』、『突然に』である。
その際、受話器からまた焦ったような口調の外国語が流れ出てきていたが、そんなものはお構いなしである。
そして引き攣った表情のまま、つかつかとエンジェルではない同僚の前に歩み寄ると、彼女と同じようにコードレスフォンを同僚に向かって突き付けた。
「ホットアイ。」
名だけを呼ばれた彼は、しかしながらにっこりと愛想良く微笑んで、鼻先3cmの距離にある機械を受け取り、保留を解除すると流暢に外国語を操り始めた。
その様子にコブラははぁっと疲れたような吐息を吐いて、のろのろと自席へ戻っていく…前に、縁なしの眼鏡をかけて日本語ではない文字の羅列された文献を眺めるエンジェルの方へ足を向けた。
こつこつと響く靴音に、エンジェルはきゅっと口唇を撓ませて顔を上げる。
「てめぇ…喋れるだろうが、英語!!」
ぐるぐると地を這うような声音にも頓着せず、エンジェルは素敵な笑顔のままこくりと首を傾げた。クールビューティな見た眼に反して、そんなコケティッシュな仕草がひどく可愛らしい。
「でも…コブラも英語出来たはずだぞ?」
楽しそうにひらりと返した手に掴まれているのは、先日コブラが提出した学術論文。それにちらりと視線を遣った後、コブラはちっと行儀悪く舌打ちした。確かにその論文は提出先が海外であったため英語で表記してある。
そう、表記はしてあるのだが。
「人見知りもいい加減にしないと、部長に怒られるぞ?」
会社員としてもっともなエンジェルの意見に、コブラは苦虫を10匹くらいまとめて噛み潰したような表情を浮かべて、直滑降な機嫌のままぼそりと小さく呟いた。
「人見知りとかじゃねぇ…」
「ん?」
本社の人間は学生時代の同級生であるジェラールにしか面会せず、研究所では自分たち同室のものたち以外とは碌に挨拶さえも交わさないこの男を、人見知りと評さずして、一体どんな人間を『人見知り』と評するのだろう。
「じゃあ、人見知りじゃなかったら、引きこもり…だぞ?」
エンジェルが口にした、更に微妙な表現にコブラの眦がきゅっと吊り上がった。
「うるせぇ、俺は英語、読めて書けても喋れねーんだよ!!」
がうっと噛み付くようにコブラの口唇から吐き出された言葉に、エンジェルの眼がきょとんと見開かれ、その次の瞬間、盛大な笑い声が重なった。
***
夜来礼讚:稲荷ギンカ様よりしっかりがっつり頂戴して参りました。
なにこの素早い対応力。
やればできるんだね、ってくらい物凄い早さで頂いてきました。
だって!
コブラがっ…〜〜〜っ!!
稲荷さま、愛してます。
英語と日本語の言語差で言い合う(会話する)エンジェルとコブラが愛おし過ぎます。
そしてペラペラなホットアイ。
ホットアイ何気に好きだったりします。
え?もしかしてゆんの好物詰め合わせ?\(^^)/
引きこもり…そして思わず言い返すコブラを愛でて愛していっそ病みます。
わーん!!
稲荷さまーー!!
大好きです!もう憑いて逝きます!
ありがとうございました!!
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