「やる。」
 そう言いながら眼の前に付き出された拳をじっと見つめた後、レビィは頭上にクエスチョンマークを盛大に浮かべ、彼の拳と、見た目にはわかり難いがほんのりと染まる眦の間で、何度も視線を往復させた。

 何だろうこれ。

 うん、多分今日の日付から考えれば、好きな人に贈り物を贈る日だっていうのは充分認識してるけど。
 でも『好きな人』なんて、自分が彼の『好きな人』だなんて欠片も想像つかなかったし。

 どちらかっていうと出会いの印象は最悪を通り越して、出来れば二度とその顔見たくない感じだったんだけど。
 何の運命の悪戯か、その後毎日顔をつき合わせるようになって。

 いつの間にか、『あ、悪い人じゃないんだ』って、それまでの評価がマイナスを突き抜けていたから、わかり難くちょっとだけ示される気遣いに心の奥がほんわりと温かくなったっけ。

 だからって、この親の敵のように眼の前5cmの至近距離までつき付けられた『茶色の紙袋』の意味は一体何なんだろう?
 この眼差しはどう好意的に見たって、『好きな人』にプレゼントを渡すような種類のものではない。いいとこその手に握られるのは『果たし状』の方がずっとお似合いだ。
 いや、自分は『果たし状』が欲しい訳ではないのだけれど。

 この距離まで近付けられると、その紙袋の中身が発する香もよく感じられる。
 巷でいう『好きな人に贈り物を贈る日』の定番は、甘いチョコレートのはずだ。しかしこの紙袋の中身は、同じ『甘い香』を放ってはいるが、どうも方向性の違った甘い香を放っていて。
 ついでにほこほことした温かい湯気が出てたりして。

 うん、中身の正体はわかる、わかっている。わからないのはその意味だ。

 どうにもレビィが受け取らない限り、その良い香のする紙袋は梃子でもその場を動かないようで、きょろりと彷徨った視線が、再度紙袋とその紙袋を一定の高さでホールドしている彼の顔の間で往復する。流石に見つめ合った…ようなままかっつりと固まる自分たちに、徐々にギルド内の注目が寄せられ始めていた。
 その中でも同じチームを組んでいるジェットとドロイなど、射殺しそうな形相で自分たちを睨み付けながら、グレイとナツに後ろから羽交い絞めにされている。
 その居心地の悪さにレビィは斜め上方向へ一瞬視線を流した後、おずおずと掌をさし出してその紙袋を受け取った。

「あ…ありがとう。」
 プレゼントの主旨は全くもってわからないけれど、モノをもらったら取り敢えずお礼。
「お…おう。」
 上目遣いにこくりと首を傾げれば、そんなぶっきらぼうな言葉とともにふいっと視線を外された。必然的にレビィの眼の前へ曝された彼の耳朶が真っ紅に染まっている。
 だから…だから、ほんのちょっとだけ勇気を出して、レビィは釣られるようにぽっと頬を染めて口唇を開いた。

「こ、これ…」
 さり気なく伸べられる、わかり難い優しさに。

「あ、あの…えっと…」
 声が震えるのは出会いの印象から来る恐怖ではなくて。

「『今日』の意味で受け取っていい…ん、だよね?」
 そう、今日は『好きな人』に思いを込めてプレゼントを渡す日。

 沸騰しそうな程真っ紅に頬を染めながらも、レビィは未だにそっぽを向いている彼の横顔をじっと見つめた。ざわざわと騒ぐ外野の声よりも、口から飛び出しそうな程暴れ出した心臓の音がうるさい。

「…当たり前だ。」

 ぽつりと彼の口唇から零れ落ちた肯定の言葉にレビィはふんわりと微笑んで、手渡された紙袋の中身を取り出して、ぱくりと頭からかぶりついた。

「美味いか?」
「うん…美味しいね、鯛焼…ガジルも食べる?」
「…おう。」


***
夜来礼讚:稲荷ギンカ様よりValentine記念DLFを頂戴して参りました。

ガジルが…がじるくんが!!
なんて乙女!!(きゃー!!
しかも冷静に状況を判断するレビィが何気に大好きです。
鯛焼!タイヤキvたいやきvv
しかも恥ずかしそうに頬を染めて俯き加減でたいやきにかぶりつくガジルですって!!
うあ、も、半端ない破壊力…。

可愛過ぎて乙女ながじるん私愛してる!!

稲荷さまー!!
ありがとうございました!!


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