最近、名前の様子が変だ。恋人である俺を見るなり避けているような行動をとる。いつもなら、俺を見かければ嬉しそうに笑って話しかけてくれんのに。俺はイライラしたような気持ちを抑えきれずに、ため息を吐いた。名前とは中学生の時からの付き合いだがこんな事は初めてだった。まさか大学生になった今更で「別れよう」なんて言う気じゃねぇよな……。んだよ、気持ち悪いな。俺らしくねー。




「不動、どうした。元気がないな。変なものでも食ったのか?」

「鬼道……」



そんないつもの鬼道の皮肉に俺はため息で返す。あいにく、俺はお前に構ってやれるほどの余裕がねぇよ、今はな。そういうと勘の鋭い鬼道は「名前のことか」と尋ねてきやがった。



「最近、お前と名前は妙に距離があるな。もう一部の奴らの中ではあの二人は別れたとか言ってるやつもいるぞ?」

「ぬかせ。んなわけねーだろうが」

「まぁ、早めに解決した方がいいと思うぞ。名前は人気があるからな。とられてしまうかもな」




「俺とかに」と余計なひと言を付け加える鬼道。お前が言うと冗談に聞こえないっつーの。そういや、こいつ中学の頃名前が好きだったんだっけ。もしかしたら今でも好きなのかもしれねぇ。畜生、こうしちゃいられねぇよ!俺は「授業サボる!」と立ち上がると廊下で親友の木野としゃべってた名前を強引に捕まえて、割と近くにある独り暮らしの俺の家に連れ込む。道の途中で「離して」だの「授業がある」だのギャーギャー喚く名前に「うるせぇ、キスするぞ」と一括すれば真っ赤な顔で黙り込んでしまった。大学生にもなって何キスごときで照れてるんだか。ま、そこが可愛いんだけどよ。部屋に連れ込むなり、名前を正座させて向かい合って座る。




「で、何があった?」

「何がよ」

「とぼけんなよ。最近お前の様子が変だろ。心配になってこっちは寝不足でイライラしてんだっつーの」

「……よくそんなことが言えるよね」




ぼそり、とそう呟く名前に俺は眉をひそめる。




「何が言いたいんだよ」

「だから、私と別れるつもりなら、そんな優しい事、言わないでよ」




別れるつもり?は?何言ってるんだ名前は。つーか、名前の方が別れるつもりじゃねーのかよ。俺が戸惑って黙っているうちに名前はどんどん言葉を進めていく。




「私、知ってるんだよ。明王が私と別れたいって愚痴ってること。なのに、そんなこと言わないで!別れたいならちゃんと言ってよ!馬鹿!」

「何言ってんだよ、名前」

「もう知らない!明王なんて!明王の馬鹿!明王なんてだいっきら……」

「それ以上は言わせねぇよ!」




俺は名前を押し倒す。泣きながら、嫌だ嫌だと首を振る名前にらしくもなく力加減が出来ず、強く腕を握ってしまっていた。慌てて腕を離すが、この押し倒している態勢は変えない。




「別れたいなんて愚痴った覚えは絶対にねぇよ。酒を入れてもな」

「だ、だって、ひくっ、みんなが……」

「根拠のねぇ噂を信じるな。俺だけを信じてりゃいいだろうが」




「それに」と俺はポケットから小さな箱を取り出す。このタイミングでやるのもどうかと思うが、まぁいいか。




「別れたいって本当に思ってんなら、名前のためにこんなもの買うわけねーだろ」




名前はその箱の中身を見るなり、大きく目を見開いて俺と箱の中身を交互に見る。中身はもちろん指輪なわけだが……その意味はいやでも分かるよなぁ?俺は悪戯っぽく笑うと「それでも疑うか?」と言う。名前は大きく首を横に振った。



「あきお、ごめ、わたし……しあわ、せ……っ」

「そりゃよかった」




優しく泣きじゃくる名前の頭をなでてやる。俺らしくねぇことは百も承知だがこの際仕方ねぇだろ。名前をぜってぇ離すかよ。鬼道にだって渡すつもりはねぇ。「幸せにする」とさすがに恥ずかしく、目をそらして言えば、名前は嬉しそうに笑ってゆっくりと俺の頬にキスを落とした。



全く、もう変な噂を信じるんじゃねーぞ。ばーか。







流言飛語
根拠のない噂









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