今日はやけに雪が降る。到着した頃には土が見えていたグラウンドも、今では一面真っ白だ。肩に積もる雪を払う気すら失せてきた。俺は、どれくらい待っているんだろう。

唐突に、ざくざくと雪を踏む音が聞こえてきて、反射的に顔を上げた。俺の目の前で立ち止まったのは俺が待ち望んでいる人、の、大切な人。


「...士郎、来てないんだ」

なんだ。この人も吹雪先輩の動向を知らないのか。期待が外れた俺は小さく頷いて視線を下げた。


戸惑いながら俺の隣に腰を下ろしたこの人は、俺の様子を伺いながら紫に変色した唇をゆっくり動かした。

「さっき、白恋中の新監督っていう人から電話がきたの。士郎が、...コーチを辞職した、って」

新監督?先輩が、辞職?そんなの、有り得ないだろ。あの優しくて熱心な吹雪先輩が何も言わずにコーチを辞めるなんて、有り得ない。...有り得ない、よな?

「どこに行っちゃったんだろうね...」

だって先輩、今日も練習見てくれるって約束したから。吹雪先輩は、約束を破るような人じゃ、ない。


「ねえ、雪村。もしこのまま士郎も帰ってこなかったら...どうしよう」

...士郎"も"?前にも同じようなことがあったのか?

口をつぐんでしまった彼女の肩に降り積もる雪を払おうと手を伸ばして、途中でやめた。いつもの柔和な笑顔からは想像できないくらい切なそうな表情をするこの人に何をしたらいいのかわからなくなったからだ。行き場を失った左腕で膝を抱えて、俺は彼女から視線を逸らした。


その間にも雪はどんどん積もっていく。指先の感覚はいつの間にかなくなっていた。それなのに先輩がやって来る気配は全くない。もしかして、本当に、先輩は...

くしゅん、唐突に小さなくしゃみが聞こえてきた方向を見れば、鼻を真っ赤にした彼女が小さく震えていた。

これ以上待っても...無駄だろうことは、随分前から、気が付いている。それでも俺に帰るなんて選択肢はなくて、それは、きっとこの人も同じなんだと思う。

「...屋根がある所に行きますか?」

そう言って立ち上がって手を差し伸べれば、彼女は肩の雪を払って、そっと俺の手を取った。



「別れって、出会った瞬間からもう近づいてるんだよね」
「...そうですね」
「......あんなに早いなんて思わなかったけどなあ」

...吹雪先輩とこの人の間には、昔、何か重大な出来事があったんだろう。それがどんなことだったかなんてわからないけれど、この人の表情を見ていれば、途方もなく悲しいことだというくらいは想像できる。

ざくざく、雪を踏む音が異様に大きく聞こえる。


「ねえ、わたし、士郎に愛想つかされちゃったのかなあ」

.....そうか。吹雪先輩は俺に愛想をつかしたのか。俺が、自分だけの必殺技を成功させられないから。

...俺は、先輩を信じていたのに。














会者定離
会う者は必ず
別れる運命にあるということ








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