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監視という名の取調べが始まって三日。
清雅は華薔嬌という女について大方の情報を得つつあった。

だが大方というのが本人も不満で、自らも有能であると自負する彼が三日もかかって今だ大方、というのが気に入らない。
しかし、多くを語らない彼女から情報を得る事は中々難しく、今だ歳若い清雅を信用し切れていないというのがありありと伝わって来るのだから、それは尚更だった。


「薔嬌さんは、医師の華家の方なんですか?」


にこりと人好きのする柔和な笑みを浮かべながら、清雅はそれとなく情報を得ようと必死だ。
だが、それすらも彼女には手に取る様に分かってしまう。

目の前の御史が自分を疑っている事を。


『……さあ…』


曖昧な返答しかしない。
相手の知らない事は、経歴の影に潜ませる。

彼女が清雅に対してとってきた対応はずっとそうだった。
最も、彼女が華家の人間であるかそうでないかを御史である彼が知らないという事実に、薔嬌は眉根を寄せずにいられなかった。


(ちッ、隙のない女だ…)


一寸、清雅の表情が歪むものの、直ぐに笑みが貼り付けられる。
その早業はさすがと薔嬌も思うが、それでも未だ青いと称すには十分だった。

大きな溜め息をつくと、それまで反らしていた視線を清雅に向け、気だるげに瞳を閉じる。


『長官にお会いする事は出来ますか?』


思っても見ない問いに、清雅は瞠目した。
続いて、自分には何も話す事はないと言われている様で、無性に腹が立った。


「僕では話す気になれませんか?」


彼女の問いに答える事なく、また問いを向ける清雅に薔嬌は初めて表情を綻ばせた。
困った様に笑う様は、若い清雅の心を粟立てせるには十分すぎるほど魅力的だった。


『そういう訳ではありません
ただ、長官には以前にもお会いした事がありますし、初対面で歳若いあなたには中々話し辛い事も話せるのでは、と…』


遠まわしに、お前では役不足だと言われている気もしないではないが、彼女の苦笑交じりではあるが笑みを目の当たりした所為か、気が付けば室を出て長官室にいた。








「清雅、お前もか……」


皇毅の第一声に、清雅はやっと我に返った。
何故己がここにいるか理解できない。

何故、どうして、どうやって。
冷静になろうと己を叱咤するものの、それが焦りを招くばかり。

仕方がないと溜め息を溢し席を立つ皇毅に、清雅はビクリと身体を振るわせた。


「長官が出るまでもありません!」


まだ自分がする、あの女の化けの面を必ず引っぺがすと皇毅には聞こえて来た。
それが可笑しかったのか、はたまた嘗ての己と同じようにも思えたのか、うっすらと口元に笑みを浮かべて口を開いた。


「安心しろ、久方ぶりにあの女の顔を見るだけだ
さぞかし美しくなったのだろうな…

それにしても、お前がそれ程まで執着するなど珍しいな
あの女に絆されたか?」


ニヤリと口元を歪めて笑う皇毅に、清雅はグッと唇を大きく噛み締めた。
同時に、胸に巣食う嫌な感情が渦を巻くように大きく啼いて止まない。


「絆された…?ふん、冗談じゃありません!
あの女は俺のモノですよッ」


己の獲物だ、と言う筈だったのに紡がれた言葉は恋情からくる独占欲とも取れた。
何より、何かに対してこれ程まで執着する清雅に、皇毅は驚いた様に――傍目には分からぬが――目を見開いた。


――長官に渡してたまるかッ


恋敵に対する宣戦布告ともとれる言葉ではあるが、清雅は心中で呟いた己の言葉の意味に気付いていなかった。







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