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「今までみたく精気を吸い取って、なくなったら棄てればいい
君はずっとそうして生きて来た

今更気にする必要なんてないだろう――」


――真っ黒な薔薇のお姫様?


ゾワリと身震いした。
彼の言葉に、彼の眼差しに、いつにない殺気が込められている様にも思えた。

余りの恐ろしさに後ずさり、アン樹から距離を取った。
とたん、彼の表情が一気に和らいだ。

フフフと無邪気なえ顔を携えて。


「恐がらせちゃった?ごめんね」


ホッと安堵の息を吐いた。
けれど、不安が拭えるず、オズオズと怪訝にアン樹に視線を送り続ける。

それに気が付いた彼は、またニッコリと笑みを浮かべた。


「君が泣くって事は――“特別な人”でも出来たのかな?」

『え?』

「やっぱりそうなんだ」


ピシャリと当ててきた彼に、どうしてと言わんばかりの表情で見つめ返す。
その反応に、嬉しそうにニコニコと笑う。


『ち、違いますわ!』


ムキになって否定した。
どもりながらのそれには説得力がある筈もない。

またまたー、と無邪気に哂う彼は信じてはくれなかった。

それもその筈。
彼は己の直感を何よりも信じているのだから。


「ふ〜ん、君が清雅にねえ……また随分と大変な所に堕ちたね
あれは根強い女人嫌いだよ?」


頑張らなきゃね、と同情染みた視線を送る彼に返す言葉はない。
変わりに、頑張れと言われた所でどうしろというのだ、と思った。

言い返せる筈もないまま、胸中でグルグルと可笑しな感情が渦巻く。

そんな彼女の様子に、嬉しそうに笑みを溢しながらアン樹は去っていった。


「頑張るんだよ、薔薇のお姫様」


耳元で囁いた彼の言葉は余りにも惨酷なもの。
そして、フワリと香る桃の甘さが一層彼女の心を掻き立てた。


『頑張れだなんて、どうしろというの……?』


自分が誰かを愛するなんて、もう二度とないと思っていたのに。

誰かの愛を求める事なんて諦めていたのに。

また誰かを、愛してしまうなんて――。


愛する人はただ一人決めていた。
ずっと彼への想いだけで生きていくんだと決めていた。

自分を救い出してくれたあの人こそが、自分にとっての“運命の人”で。
結ばれなかったのも運命で。

自分はそういう星の下に生まれたんだ、って…そう思い込まないと生きていけなかった。

また誰かを愛して、自分のこの身体の所為で結ばれないなんて――。


『――なんてこと…ッ』


言葉と共に、ポタリと何かが彼女の頬を伝った。
溢れ出てくる透明な雫は、行く筋もの跡を残して地に落ちる。

彼女は気付かない。
ただ、知ってしまった“想い”に恐れと、悲しみと、驚きと、絶望を感じずにはいられなかった。

溢れ出てくる涙を、彼女は止める術を知らなかった。




To be cotinue...


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