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旺季の元から帰宅した日の夜、清雅は彼女を求めた。
いつもより荒々しさを隠せない彼を、薔嬌は何をいう事もなくただそれを享受するのみ。


酷い抱き方だった。
まるで獣のように彼女を求めた。

けれど、イヤ、ヤメテとも告げない彼女に胸が痛んだ。
ツキン、と鋭い痛みが、ずっとこびり付いたまま。


同情しているわけではなかった。
けれど、確かに彼女の人生は哀しく、やるせない気持ちにもなった。


旺季のした事にも、少しだけ納得できた。
法律の改正を待つ事なんて出来ないし、何より彼女が犯した罪はきっと男たちに理解できないものだから…。

だからと言って、彼女の憐れみを向けるほど彼は偽善的でなかった。
なのに、何故――?


いくら考えようとも、答えは出てこない。
胸にぽっかりと穴が空いたような日を、彼は幾日も過ごした。










『お帰りなさいませ』


仕事から帰宅してみれば、珍しい事に薔嬌に出迎えられた。
今までに一度もなかった事に驚いた清雅は、ポカンと呆けている。

それに一瞥すると、彼女はまた我が物顔でお茶を飲む。
しかも、清雅の自室でだった。


『わたくしの事をお聞きになったのでしょう?』


咎めるでもない、冷ややかな口調で薔嬌は告げた。

旺季との事を尋ねてきた清雅を、彼女はすぐさま彼の元へと向かったと判断したのだ。
何より、その翌日の彼の抱き方を思えば、直ぐに分かる。

清雅は彼女の言葉にああ、と小さく答えた。
どこか苦々しい表情の彼に、薔嬌はクスリと笑みが零れる。


『あなたがそんな顔をする必要など何処にありましょう』


大方同情でもしたのだろう、と思ったが直ぐにその考えを打ち消した。
彼がそんな真っ当な人間だとは思ってもいないから。

旺季は真っ当だったが、清雅は違う。
未だ青いが皇毅と同じ部類の人間だ。

その彼が同情などするはずがない。
むしろ――。


『わたくしを浅ましい女よ、と蔑まれますか?』


そう、清雅ならば間違いなくそうするだろう。
かつて葵皇毅が己にそうしたように――。

向けた言葉に同調するかと思われ清雅は、それとは正反対の表情を浮かべた。
その表情に、今度は薔嬌が困惑する。


(どうしてそんな表情をなさるの?)


そんな……今にも怒り狂いそうな顔を。



「別に……」


ふいと視線を外し、顔を背けた。

何故か罪悪感に満ちて仕方がない。
彼女の過去を聞いてしまった事に、背徳感が否めない。

きっと本人も聞かれたくないだろうに…。
誰にも言いたくなかった過去を、無理やり覗き込んで暴いてしまった。


そんな清雅を、薔嬌もまた罰の悪そうな表情で見つめていた。
どうしてあなたがそんな顔をするの、と言いたげに。





その日も、清雅は彼女の身体を求めた。
荒々しさに満ちたソレに、彼女は変わらず受け止める。

どんなに浅ましい行為も、快楽として受け入れていた。

最中の彼女の表情をとって見ても、何も変わらない。
ただありのままをそのままに――。


――ツキンッ……


小さいけれど鋭い痛みが、また清雅を襲う。
彼女を抱くにつれて、痛みは増していく。

けれど、快楽に溺れる清雅は、痛みにすら気付いていない。
それが何を意味しているのか、彼はまだ知らない。







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