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――御伽噺なんて大嫌いよ

嘘ばっかりで、真実なんて何一つない

夢ばかり持たせて

現実に絶望させるだけ


わたくしは絶対に信じない


信じられるのは自分だけ



男なんて信用しないわ……絶対に











「薔嬌……お前は本当に美しいな」


そう言って、中年の男は艶然と微笑む少女の頬にそっと手を伸ばす。
男の皺の寄った手に吸い付く様な珠の肌に、男は下卑た笑みを一層深めた。

少女でありながら妓女の如く艶めいており、それが彼女の美貌を一層引き立て、同時に危ういモノと感じさせる。

早くに妻を亡くし、新たに迎えた妾は思いのほか己に従順で美しかった。
今も己の手をそっと包み込み微笑む姿は、零れんばかりの愛くるしさと色香が入り混じっている。

身体を繋げる事以上にそれは男を魅了していく。
そして男は、この若く美しい妾にどんどんのめり込んでいった。

朝廷でさほど高い地位は得ていない為、得る禄高もたかが知れている。
それでも彼はこの美しい妾の為に、せっせと綾絹や宝玉を買い与えた。




『こんなによろしいのに……でも、嬉しゅうございますわ』


困った様に苦笑を浮かべる。
彼女はいつも謙虚で、淑やかで、男に粛々と仕える女であった。

男が贈った綾絹や宝玉を、決して自ら強請ることはしない。
それが返って男の矜持を奮い立たせた。

贈り物をすれば、最後に必ず、彼女はとろけんばかりの笑みを浮かべる。
その笑みのなんと美しいこと。

この笑み見たさに、男は妾に貢いでゆく。
されど、男の禄はたかが知れていた。

いつしか金は底を付く。
そんな時でも、妾は態度を変えることはなかった。


『もうよいのです、わたくしの為に無理をする必要などありませぬ』


そう言って体を摩り、男に身体を労わる様にと続ける。
それが男の心をまたもや奮い立たせた。

美しい妾の為に、男としての矜持の為に。
そう言って、彼女に貢ぐための綾絹、宝玉を求めて、男は悪事に手を染めていく。

悪事を以てして手に入れた金で妾に貢ぎ、彼女は困った様に笑った後に、またとろけんばかりの笑みを浮かべ、男はそれを見て喜ぶ。
そしてまたそれが繰り返される。

いつしか男の周りにはそういった悪事を働くものばかりが集い、それは“ある所”へと知られてゆく。
気付いたときには、もう遅かった――。





「そこまでだ」


男の邸宅に一人の壮年が現れ、静か声を挙げる。
額に掲げられた“紋”に、男は愕然と膝を折った。


(最早ここまでか…)


自らが招いた種であった事は分かっている。
だからせめて、愛する彼女だけは――。


「どうか薔嬌だけは見逃してくれ…」


男は現われ壮年にそう懇願した。
けれど“紋”を掲げた壮年が言葉を発する事はなく、ただ静かに双眸を細めて男を見下ろすだけ。


そして男の言葉を物陰からひっそりと聞いていた薔嬌の瞳が、いやに歓喜に満ちていた。







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