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「父親が死んだ、と聞きました……ですが、何故態々旺季様が?

確かに、以前の事件で彼女は旺季様と面識を持ちました
彼女の家族関係は破綻していると予想は付きます

ですが旺季様自ら彼女に知らせる必要があるのですか?
何より彼女は――」

「私が勝手にした事だ」


清雅の言葉を遮る様に、旺季は言った。
わたしの勝手な我儘からしたのだ、親の身勝手な感情を彼女に突きつけたのだ、と続けて。


「恐らく、いや前回の事件で、彼女は故意にあの男を堕落させようとしていた
だが、その裏には彼女のそれまでの余りにも哀しい人生が隠されていた

それを公にするには……余りに哀れだった」


だから私が勝手に幕を下ろした、と彼は己の罪を吐露した。

やはり、と思った。
前回の件は旺季が勝手に判決を下して、彼女無罪として釈放したのだ。

予想通りの答えだった。
そして、飛燕姫との事を気にして、それで必要以上に薔嬌に対して構うのだとも悟った。

実の娘に何も出来なかった彼の、せめてもの償い。
それを思えば、今まで彼が裏から手を回した事件は、全て年頃の少女が関わっていた。


前回の、数年前に起きた藍州での父殺しの件も――。


これまで女人が受けてきた不条理な待遇を嘆いての事だとも分かる。
事実、彼女たちを哀れだとも思った。

自らまいた種もあったが、彼が“そうした”事件は全て何の罪もない少女が犠牲になっていたから。


「清雅、お前は彼女の所業に付いてどう思う?」


ゆったりとした口調で旺季は尋ねた。
自分の罪についてではなく、ただ彼女の所業について純粋に尋ねた。


「裁かれるべきだと思います」

「彼女が薔薇姫の様な人生を送っていたとしても?」


え?と呆けた。
薔薇姫?御伽噺の薔薇姫か?と清雅は頭の中で繰り返した。


「御伽噺の薔薇姫だ
最も、皇毅は彼女を黒い薔薇姫だと言っていてが…」


クスリと旺季の口元に笑みが浮かんだ。
まだ若く青かった皇毅が、悔し紛れに薔嬌に告げた言葉だった。

当時、十台半ばだった薔嬌に向けた精一杯の卑下の言葉。
彼女はそれを平然と受け止めた。

まるでその通りだと言わんばかりに――。


「彼女の過去を聞いても、お前は彼女を裁けるか?
男達の身勝手さに苦しんだ結果の結末だったとしても」


静かな瞳だった。
叱咤する様な口振りでもなく、ただ諭す様に告げる旺季の瞳に吸い寄せられる様に、清雅は旺季の瞳を見つめた。

どうしても聞きたくて、尋ねてきた。
からからに乾いた喉から言葉を振り絞る様にして、望みを言葉に紡いだ。


「華薔嬌の過去を、話してくださるのですね…?」


静かな瞳が、そっと瞼の奥に消えていくのが、彼の合図だった。
それが始まりとなって、ポツリポツリと、旺季は口を開き始める。

哀しい、哀しい、黒の薔薇姫の話を――。







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