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彼女の涙を見た日から、三日が過ぎた。
次の日からせっせと働く姿を見てホッとした清雅は、また彼女の行動を報告させる様に家令に指示した。

彼女の体調も含め、何気ない事にも細々と報告する様に命じる彼に、家令のじいやはほっこりと笑みを浮かべる。

温かい目で見守る、という眼差しに清雅が尋ねてみれば、予想通りの返答が返ってきた。


「女嫌いになられてから女人を遠ざけ様になられた若様が、ようやく奥方をお迎えになられると思うと、じいやは嬉しゅうて嬉しゅうて…

薔嬌殿は確かに若様より年上ですが、気にする事はございませぬ
あれ程の方は早々おられませぬ故、しっかりと御捕まえなさいませ!」


大きな勘違いをしている家令に、またしても頭が痛くなってくる。
彼のこの勘違い病はいったいどうしたら治るのかと、清雅は思い悩んだ。

そんな彼の様子に、家令は柔らかく微笑む。
きっと彼の目にはどうしてバレてるんだ、と悩んでるようにしか見えてないだろう。

家人どもの誤解を解くには時間と労力を費やすのだと思うと、どっと疲れが押し寄せてきた。







「薔嬌に客?」

「いえ、客というよりは影に近く、窓枠に手紙のような者を挟んでそのまま姿を消しました」


ここ数日の彼女の身辺の報告に、清雅の表情が自然と強張る。
内容は、と問いただせども分からないとしか帰って来ない。

ですがと続け、男の出所を突き止めた言えば、言葉を濁しながらポツリとその人物の名前を告げると、清雅の表情が見る見るうちに変っていった。


「何だと!?本当か、それはッ!」


何故、としか言いようのない程の人物と薔嬌の繋がりに、清雅は背中にジンワリと冷や汗が滲むのが分かった。
彼と接点はいつ、どうやって、と頭の中でグルグルと疑問が螺旋していく。

確かに彼とは前回の事件の折に顔見知り程度にはなっているだろう。
だが、彼のような人物が彼女と繋がりをもつとは思えない。

何の徳があるのかとも思ったが、彼の性格を考慮してみれば、もしやという事もない。


「どうしてあの方が…」


擦れた囁きに、焦燥感が一層煽られる。
けれど、清雅は直ぐに文紙を手にとって、訪問の許しを得る内容をしたため、その人物へと届けるように家人に命じた。

そして、何故そんな繋がりがあったのかを確かめる為、薔嬌の元へと向かった。










バンと勢いよく彼女の室の扉を開ける。


「おい、いるの―――ッ!!」


開けた瞬間、清雅の目の前に飛び込んだのは、湯上り姿の薔嬌だった。

濡れた髪に、ほのかに桜色の火照った肌。
この前とは違った艶やかさが、清雅を惑わす様に漂う。


『この様な時間に、いったい何様でございますか?』


髪を乾かしながら尋ねる彼女は、自然と首を傾げている。
上目遣いに見上げられ、不覚にも清雅はときめいた。

言葉とは裏腹に、あどけない表情を見せられ、ドクリと胸が高鳴る。
それを払拭する様に大きく頭を振り、キッと眼差しを強めて近寄った。


「手紙の内容はなんだ?」

『……手紙?』


何故それを知っているとばかりに睨み返す薔嬌。
誰も見ていないはずで、あの後尋ねてきた清雅も灰を見かけたかもしれないが、それが手紙だとは気付かない筈。

ならば――。


『なるほど、わたくしに監視をつけていたのでしたわね』

「そういう事だ
で?質問の答えはなんだ」


さっさと吐けと苛立ちが含まれているのが薔嬌にも手に取るように分かった。
大方、己と繋がっている人物との接点を知りたいのだろうと思い、仕方がないと一息付いて口を開いた。







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