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それからいくつもの季節が過ぎた。
婉蓉に対する清苑の想いは年を重ねるにつれて積もりに積もり、いつしか自分でも自制することが出来ないほどに膨れ上がっていた。


彼女を大切にしたい、けれど―。

不器用な恋心を胸に秘めながら、清苑は彼女と劉輝と過ごしてきた。
けれど、二人が十三の年になった頃からそんな関係は代わり始めた。





『清苑様、如何致しましたか?』


自分の機嫌が悪いとということを清苑は自覚していた。
けれど、そんな事など露と知らない彼女は正直に問いただす。


(ここ数ヶ月の間に、婉蓉は更に美しくなった―)


庭園の木々が赤や黄へと色を変える秋の季節、久方ぶりに彼女と再会した清苑は正直にそう思った。
十二を過ぎた頃から二人が会う機会は激減した。

それは、清苑が本格的に公子としての義務を果たすべく政務に取り掛かり始めたことや、婉蓉が主上付き女官の中でも高位に位置するようになってからでもある。


だが、一番の理由としては清苑が彼女を避けていたからである。


十二を過ぎた頃から清苑は男に、婉蓉は女としての特徴が端々に見え始めた。
特に、清苑は雄としての感情を彼女に抱き始めたのだ。

劉輝が昼寝をしている間に、劉輝が夜眠った後に、何度清苑は彼女を組み敷いて仕舞いそうになる自分を戒めていた。

衣越しにも分かる様になった彼女の胸の膨らみ、時折垣間見る彼女の透き通るような白い腕。
彼女が子供から少女へと変貌していく様を突き付けられていた。

それがどんなに清苑の雄としての本能を刺激しているのか、婉蓉は知る由もなかった。
故に清苑は彼女を避けていた。


期間としてはそれほど長いものではなかった。
それでも、久方ぶりに見た彼女は以前よりもずっと美しく艶めいて見えた。

そんな彼女を直視すればきっと自分の理性は失せてしまう。
清苑には分かっていた。

だから彼女と視線を合わさず、自分の理性を抑えるために必死に無表情を取り繕った。
けれど、彼のそんな努力を婉蓉は泡沫の様に消してしまう。



『清苑様?』


いつもなら返事をする彼を不振に思った婉蓉は無礼と知りながら彼に近寄った。
自分より幾分か上背のある清苑を見上げれば、自然と上目遣いになる。

他の女官とは違う欲も打算もないソレ、ましてや恋する少女にそんな風に見つめられれば、清苑の理性が綻んでしまうのも道理。


『どこか御身体の調子が思わしくないのですか?』


彼の身体の熱を測ろうと、そっと手を伸ばして彼の掌に触れた瞬間―。


 ドクンッ


「触るなッ!」

『きゃッ』


我に返った清苑は呆然とした。
自分が婉蓉を突き飛ばしたのだから―。

誰よりも大切に思っていた恋い慕う少女を自分が傷つけてしまったことに、彼の胸は刃を突き刺された以上に痛んでいた。


「す、済まない…婉蓉、大丈夫か?」


彼女の手を取ろうと思えど、触れるてしまうことを恐れて触れることも出来ない。
けれど、そんな清苑の心の痛みなど知らない彼女は表情を変えずに立ち上がり、綺麗な礼を取る。


『こちらこそ、出すぎた真似を致しました
ご無礼をお許しください』


いつもと変わらぬ声音に、ズキンと清苑の胸が悲鳴を上げた。
きっと今の自分は情けない顔をしている、そう清苑には思えた。

情けない顔など彼女に見せられない、そう自分に言い聞かせて彼は強く拳を握り締める。


「いや、私の方こそ悪かった…その、今日は政務で疲れているんだ、だから―」


何とか取り繕おうとするものの、彼の口から紡がれるのは曖昧な言葉ばかり。
結局、何一つ彼女に言い訳を告げることも出来なかった。


『お疲れでしたら、後ほど薬湯をお持ち致しましょう』


淡々とした彼女の言葉に、また清苑の胸が鈍く、けれど鋭い痛みが突き刺さる。


「いや、いい…今日は早く床につく」


そう告げると、清苑は逃げる様に自室へと戻っていった。








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