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『劉輝様自身に被害が及ばぬよう、筆頭女官殿も気を配られていらっしゃる様でなのすが…
なかなか、妾妃様には聞き入れて頂けないようです』


そっと視線を足元に落として告げる姿は、本当に公子の心配をしていることが伺える。
こういうところが彼女の美徳だと清苑は思えてならなかった。

上辺を造ろうだけの女官は後宮には当たり前の存在だった。
けれど彼女は違った。


正真正銘本物の女官。

王の為に働き、王の為だけに尽くす。
そう、まるで本物の貴族と謳われる旺季の様な感覚を覚える。




『第六妾妃様は王位に対してなんら執着はお持ちではありません
ですが、鈴蘭の君様の御子ということもあって清苑様には良い感情をお持ちではないでしょう…

特に、この頃の清苑様の評判は彼の御方の御耳にも届いております
杞憂に終わればよいのですが、身辺には十二分にお気をつけ下さいませ』


しっかりと視線を合わせて告げる彼女に、こくりと頷いて返事をする。
恐らく、最近の彼の評判に狂喜している祖父を危惧しての言葉だろう。

こういう気遣いを他の女官は決してしないだろう。

むしろ、清苑の評判に乗っかり自身も何らかの恩恵を受けようと、歳の近い女官や侍官であれば寵愛を得ようと媚を売り、年嵩の女官や侍官であれば年周りの良い親類の娘を妃にと画策している。

女官としても素晴らしい心構えだと感心し、いづれは筆頭女官となり、末は女官長に地位に就くだろうと今から想像するに容易かった。


『妾は仕事がありますので、これで失礼いたします
春とはいえど、庭園に長居をされますと御身体に障られますゆえ、程ほどに…』


最後に清苑の身体を労わる言葉を告げて、その身にはあまる琵琶を大事そうに掲げながら、静々と美しい所作をもって下がっていった。

清苑はただじっとその後姿を見つめていた。
相変わらず美しい少女であり、美しい所作と、美しい心根の持ち主である。

先程は末は筆頭女官か女官長か、と胸中で呟いたが、実際は自身の妃にと望んでいる。
楽も舞いも、所作も教養も、志も心根もいづれをとっても他の女官より優れていた。

何より清苑が彼女を望んでいる。
彼女が傍にいればこの王宮で生きていける、そう思っていた。

まだ七つとはいえど、彼には既に次代の王になるという意識が多少なりとてあった。
兄である太子の補佐という道も考えたこともあったが、もはや以前の様な穏やかさは失いつつある。

自身が原因であるということは否めないが、自分というもの失いつつある太子に国を任せることは出来ない。


七つの子供にして、清苑は王位争いの道へと足を踏み出し始めていた。










しばらくして、婉蓉が王より藤の衣を下賜された。
五つの頃より女官見習いとして王の傍仕えし、その仕事ぶりと琵琶の音を鑑みてのことだった。

女官としては初の下賜に、朝廷の官吏たちも一層彼女に目を向けるようになり、他の公子達も我が物にせんと画策することとなる。


だが、旺季が就いている御史大夫の地位が正四品から従二品に格上げされたことにより歯止めされた。

これまでの彼の働きぶりに対してのことと思われたが、霄宰相を始めとする婉蓉の出自を知る数少ない官吏たちは、彼女をより守りやすくするためではと思っていた。

事実、当の本人である旺季もそう思っていた―。


(全く、姪を守りたいのならもっと下賜などせねばよいものを…)


紫宸殿での授与の儀の際に、旺季は目の前の王に毒付く様に胸中で呟いた。
それに気付いたのか、セン華はそっと小さく傍目にはわからないほどに唇を動かした。


“俺が動けばことが大きくなる…アレを助けたくば自分で動くんだな”


読唇術を心得る旺季にだけわかる、小さな囁き。
いつも自分を扱き使う王に旺季はムッと表情をしかめるものの、幼い頃から目をかけていた少女が危険に苛まれることをよしとしない彼は黙って瞳を閉じた。








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