(1/3)



初めて女を抱いたのは、十三のときだった。

相手は―――又従姉妹。

四つ年上の綺麗で優しい人。
一族内の女たちは皆貪婪で、無知で、恥知らずな、救いようもないクズだったけれど、彼女だけは違った。

彼女だけは清麗で、聡明で、慎み深くて、まさに淑女と言うに相応しい姫だった。

はじめは姉を慕う様な気持ちだったが、己が男という事を自覚する様になってから彼女を意識し始めていき、戸惑いを隠しきれない俺を、彼女は包み込む様に受け入れてくれた。

王位争いの余波を受け、内部分裂の激しかった陸家での俺の立場は微妙なものだった。
当主でる伯父には実子はおらず、彼の弟の子である俺が次期当主の第一候補として上がっていたが、同じく彼の甥――俺にとっては従兄弟――もまた優秀だった為に、跡継ぎ問題で内憂外患状態だった。

そんな中、一つ年上の従兄弟を差し置いて、俺が次期当主へと正式に決まった。
何故なら彼は王位争いの折に第五公子を支持していた父――俺にとっての叔父――が投獄され、そのとばっちりも受けて彼も罰せられた。

仕方がないという感も否めないが、俺が証となる“銀の腕輪”をはめる事となった。


一族内の年頃の男がいなかった陸家は血族婚を行い一族の結束を高めようとした事もあって、彼女とは四つも歳が離れていたが許婚となり、それなりに平穏に暮らしていた。

初めて彼女――女――を抱いたのも、結納が行われたその夜。
正式な婚姻はまだ先立ったが、彼女と結婚できて、また彼女の心が自分になると知った正念だった俺は、有頂天だった。

だからかもしれない、彼女の本当の姿に気が付けなかったのは――。



『何を考えているの?』


薔嬌はわざと耳元で息を吹きかける様に囁く。
甘い吐息と擦れた声が艶めいていて、直ぐに清雅は我に返った。


「…あッ…ん、…ッ…はぁ…」


彼女の問いに答える事もなくじっとしていれば、薔嬌の巧みな愛撫が清雅の身体を高ぶらせていく。
それを少年の様に初々しい表情と喘ぎ声で答えると同時に、客観的に見つめている己がいる事に気が付いた。


――何故この女はこうも俺の心を掻き乱す…?


彼女と身体を重ねていると不意に嘗ての記憶が呼び起こされ、不可解な感情に悩まされる。

どうしてだろう、と思わずにはいられなかった。
女としては全くと言っていい程似ていない。

記憶の中の許婚は、いつも清麗で、少し幼さを残す美しさと品位が滲み出ていた。
目の前で己を誘う薔嬌はとても美しいけれど、婀娜めいた仕草と気だるげな表情は清麗とは言えず、まさに“女”と称すに相応しかった。

その正反対な二人の女が、褥のときだけは重なる。
どうしてだろう…と清雅は再度思った。

どうしてこんなにも心揺さぶられるのか、と思わずにはいられなかった――。









「清雅は本当に何でも上手ね」


年上の又従姉妹の髪を結う己に、彼女――桂児――はフフフと袂で口元を隠しながら鏡越しに笑みを向ける。

さらさらと手を滑る髪はとても美しいけれど、反面非常に結いにくかった。
桂児付きの侍女はいつも髪結いに手を挙げており、見かねた清雅が変わるようになったのはいつの頃か。

手先が器用だった清雅は、ゆっくりではあるが綺麗に髪を結い上げていく。
それを目の辺りにした桂児が、今日からわたくしの髪は清雅が結ってくれるかしら、と尋お願いすると、彼はニッコリと頷いて答えた。



それから数年後だった。
二人の婚約が正式に決まったのは。

清雅は伯父から聞かされた事実に、身を躍らせる様にして桂児のもとへと翔けて行った。
幼いながらも彼女に心を寄せてきた清雅にとって、この縁談は願ってもいないこと。

この数年で彼女への想いを自覚した彼は、何度となく想いを告げてきた。
それをやんわりと彼女は受け止めていたが、心は自分にあると思っている。

今日、この日を持って彼女の心の胸の内を知り、心を通わせる、そう心に決めて彼女の元へ急ぐ。

美しい彼女を妻に迎えられる。
愛しい彼女とずっと一緒にいられる。

逸る心を抑え、彼女の室の前で再度心を落ち着かせようと何度も息を溢す。
決心が付きそっと声を掛ければ、彼女の柔らかな声が耳に届いた。


「叔父上から聞いた…桂児も、知っているだろう?」


オズオズと尋ねれば、桂児も戸惑いつつも笑みを浮かべて頷いた。
彼女もまた、年下ではあるが彼に想いを寄せていた。

その返答に清雅は有頂天になった。

年下の己では釣り合わない、取り合ってはもらえない。
だから彼女はきちんとした言葉をくれないのだとそう思っていた。

その日の夜、清雅は喜びに身を任せて彼女を抱いた。








← 


top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -