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話を聞き終えた薔嬌は、じっと清雅を見つめていた。
何か言って欲しいと言いたげな瞳にも動じず、ただじっと視線を交わらせるだけ。

ややあって、ツイと清雅の方が先に視線を外した。
やはりこの女も、という溜め息と共に。

その溜め息が薔嬌の心に響いたのか、ホウと小さな溜め息と共に彼女の唇が言葉を紡いだ。


『よほど女運がないみたいですわね…』


ニヤリと笑う彼女は、言葉とは裏腹にとても美しかった。
いつもの娟妍とした笑みではなく、純粋に心から美しいと思える、穏やかな笑みだった。

まるで、仕方のない子、と言いたげな。

その笑みに、言葉に、不意に清雅の涙腺が揺れた。
ずっと泣く事なんていないと思っていたのに、込み上げてくる感情を押さえきることが出来ない。

ポタリと一筋の涙が清雅の頬を伝った。
たった一筋ではあるが、そのたった一筋が清雅のこれまで苦悩を何よりも表していた。


分かっていた事だったが絶対に認めなくて、けれど誰かに言って欲しかった言葉でもあった。

己の女を見る目がなくて、それ故に今も悩んでいて、そして今また前と同じ――いや、それ以上の女に心揺さぶられている己が悔しくて仕方がない。

きっと彼女も気付いている。
彼女を嫌っている己と、彼女を求めている己の葛藤を。

その葛藤を察した薔嬌は、ゆっくりと笑みを深くした。
白くて細い指をそっと清雅の首筋に這わせた。


『それ程わたくしに似ていたのかしら?』


嬉しそうに微笑んでる様にも思える笑みに、不覚にも清雅の胸がトクリとトキめいた。
先程の柔らかな笑みよりも、ずっとこちらの方が魅力的に思えてしまう辺りが、彼の女の好みが伺える。

何より、そういう笑みの方が彼女の美しさを引き立たせた。

やんわりと近づき、夜着を羽織っただけで露になっている豊満な胸元を清雅の顔に近づけた。
谷間に彼の頬を摺り寄せ、包み込む様に顔を抱く。


『いい経験だわ…その女人がいたから、わたくしに反応したのでしょう?

その女人はわたくしと出会う為の布石だったのよ』


ハッと顔を上げる清雅に、薔嬌は言葉を奪う様に口付けた。
強引なそれに、舌が千切れる様な荒々しさを感じる。

それでも、彼女の身体を求めてしまうほどの甘さと、快楽を呼び起こしていく。

先程の交わりで濡れた彼女の秘所を、指で綻ばせれば、クチュリと淫らな水音が響く。
それだけで、清雅の身体は粟立っていく。

彼女の言葉どおり、桂児との事がなければきっと清雅は一生世間知らずの少年だった。
薔嬌と出逢ったとしても心揺さぶられる事もなくて、今までの男たちの様に騙されて破滅の徒をたどるだけ。

きっとこんな風に彼女の身体を堪能する事もなく、彼女の過去を知る事もない。

彼女という“人”を知る事もないままだった。


そう考えれば、少しは心が楽になった。
胸を苦しめた痛みが少しだけ和らいだ気がしたけれど、それでも面影は消えない。

きっと薔嬌を抱くたびに己は桂児を思い出すだろう。
そうしなければ薔嬌を薔嬌として見る事が出来ないだろうから。


そう心に言い聞かせて、清雅は己の雄を蜜壷に収めていく。
ニュチュッという音と共に絡み付いてくる膣内(なか)に、射精感を煽られて仕方がない。

どうしてか、彼女の身体は己の雄を良く刺激する。
彼女の身体からなのか、それとも彼女だからなのかは分からない。

それでおも、薔嬌の全てを求めて屈服させてしまいたいと思う辺りが、己の心を表しているのかもしれない。


(分からない…)


己が何に対して求めているのかが分からなくて、その疑問を振り切る様に彼女の身体を深く深くと貪る。
いつか分かる日が来るのか、と思いながら、脳裏にちらついていた桂児が消えていく。


『んッ…あん、あ、あん…』


小さな声が、清雅の耳に届く。
声を出す事を極力しない彼女の小さな反応に一喜一憂しながら腰を推し進めていく。


何処がイイのか、どうすればイイのか。


今彼が求めている薔嬌の事は、それだけだった。




...End



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