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「婉蓉…すまなかったのだ」


翌朝、朝餉を取ろうと現れた劉輝は、開口一番に謝罪の言葉を口にした。
シュンと項垂れた姿に、反省している様子が伺える。

そんな主を、悪いと思いつつも可愛く思ってしまう。
婉蓉の口元が少しだけ綻んだ。


『もう怒っておりませんわ
さ、朝餉をお召し上がり下さいませ』


ニッコリと笑みを浮かべる彼女の表情からは、怒っている感は伺えない。
安心した劉輝は、ほっと安堵の息を吐いた。







「昨日は散々だったのだ…」


周りの女官や侍官に聞こえぬように、そっと劉輝は囁いた。

紅尚書がいた事、看病したにも関わらず邵可や静蘭にまで疑いの目を向けられた事。
余は王なのに、とブチブチ愚痴を言う姿は幼子の様に感じられる。

こういう所が彼の長所とも言えた。
同時に短所でもあるが…。


いくつになっても童心を忘れない。
“王”にとっては余り好ましい事ではないが、劉輝本人の魅力としては好まれるだろう。

だが、この王宮にいる人の中で、誰が劉輝を“王”抜きに見てくれるだろうか。
これからの彼の行く末を思うと、少しばかり心が痛んでならい。

もう自分は、以前の様に彼の傍にいて心を慰める事は出来ないのだから…。




「劉輝様、今日のご予定は?」


珍しく感情のない表情で婉蓉は尋ねた。
神妙な面持ちと言えばそうも取れるが、やはり感情は感じられなかった。


「今日は一日政務だが…」


どうかしたのか?と続ければ、いえ、という言葉が返ってきた。

彼女が予定を聞いてくる事など今までなかった。
王として政務に励む前は色々と聞いてくる事はあったが、春以降なくなった。


『いえ…ただ、聞いてみただけですわ』


そっと笑みを携えて言った。
彼女が何でもないというなら、と劉輝は特に気に留めなかった。

冷めた朝餉を完食した後に温かい茶を飲む。
これが劉輝の日課だった。

それを一気に飲み干すと、瞑想するように瞳を閉じる。
数拍沈黙が走り、そしてカッと瞳を開ける。


「行って来る」


婉蓉に宣言するように言ってから、劉輝は席を立ち、執務室に向かった。

その後姿を、ただボーっと見つめる。
婉蓉の姿が、今日は嫌に小さく見えた。









執務室に向かえば、そこには既に双花が待ち構えていた。
礼を取る二人に.コクリと頷き返答をすると、劉輝は執務机に歩を進める。


「今日は…」


絳攸のその言葉を合図に、劉輝は硯の墨を溶く。
彼の説明を聞きながら思案し、分からなければ問う。

邵可から勉強を教わったとは言え、劉輝はまだ新米王。
分からない事だらけである。

絳攸の怒声を浴びながら、劉輝は一つ一つ案件ん取り掛かっていった。






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