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「馬鹿だな、自分から突き放したくせに…」
今でも彼女が自分を想ってくれている、と願うなんて―。
言葉に出来なかったモノが脳裏を過ぎった。
どうか彼女の心が今でも自分のモノである様に。
そう、今でも彼女に愛されていると思いたかった。
叶わないと頭では解かっていても、心は貪欲に彼女を求めていた。
十四年が過ぎた今でも―。
(そうだ…あの日も、雪の降る日だった)
小さな胸の囁きが彼の視線を空へと向けさせた。
降り積もる雪だけが、彼をあの日へと戻してくれた。
何度も後悔した。
何故あの日、愛してる、と言わなかったのか。
何故あの日、これからも君を愛してる、といわなかったのか。
何故あの日、彼女の言葉を遮ってしまったのか。
何故あの日、彼女を浚ってしまわなかったのか。
後悔の念は、自制の念に揺れる心を一気に飲み込んでいった。
(婉蓉…君に、会いたい……)
一筋の涙が、青年の頬を伝った。
続いて、一つまた一つと彼の頬に涙の跡が刻まれる。
もう、涙は枯れてしまったと思っていた。
けれど、枷を失った想いは溢れるままに涙と変わって青年の頬を伝った。
「婉蓉……婉蓉…婉蓉
君に、会いたい…会って抱きしめたい
抱きしめて、愛していると言いたい
君に口付けたい…口付けて、
君を――」
――抱きたい
掌の腰紐を胸に、青年は声もなく叫び続けた。
雪よ、雪よ
どうかお願いだ
私をあの日に、あの時に戻しておくれ
心の叫びと共に青年は願った。
けれど、青年の願いが叶う事はない。
時を戻す事は誰にも出来ないから。
出来るのは唯一、龍の名を継ぐ者のみ―。
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