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「やめろおぉぉッッッ!!」
カッと目を見開き、覚醒した絳攸の目に映ったのは寝台の天井。
肩で大きく荒い息を零し、全身からどっと冷や汗が滲み出る。
(…夢………?)
あたりを見渡せば、数刻ほど前に宛がわれた屋敷の離れだと分かった。
朝の日差しが窓から差し込み、涼やかな夏の終わりの早朝の訪れを告げていた。
まぶしいと掌で顔を覆えば、今まで自分が見ていたモノが夢だと分かり、何故だか息が詰まった。
「そうか……夢、だったのか…」
安堵の言葉を紡いだはずだった。
けれど、どこか残念だと告げる声色に、また息が詰まる。
(あんな夢を見るなんて…俺はどうかしている)
彼女が自分を名前で呼び、まるで恋人に対する様に甘えてくる。
そして自分も当然の如く受け入れ、彼女の腰に腕を回し――。
ぼっと絳攸の全身が赤く染まった。
もう少しで互いの唇が重なるはずだった事を思い出し、羞恥に熱が篭る。
「馬鹿なッ……これでは、あの常春頭となんら変わらぬではないかッ」
声が上ずり、胸の高鳴りは猶も止まらず、大きく脈打つ。
アレは自分が望んでいる事なのか、それとも―。
(分からない、何なんだこの不可解な感情はッ!)
答えの見つからない悶々とした想いは、彼の心を侵略し続ける。
“李侍朗、恋をしたことはございますか?”
かつて彼女が自分に向けて言った言葉が脳裏に浮かんだ。
誰かを愛し、慈しむ事が、いずれ国と民を思う心につながると教えてくれた彼女。
自分の心に生まれた感情を無視できるほど、彼は愚かではなかった。
(俺は、婉蓉殿を……)
夏の終わりを迎える初秋の朝、彼は自分の心を知った。
「婉蓉殿を慕っているのか……?」
小さな呟きは、彼自身が驚くほど素直に胸奥に溶け込んでいった。
それこそが、彼の求めていた“答え”だと証明するように。
To be continue...
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