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「そんなに驚いて、いったいどなたからの手紙ですか?」


戸部尚書・黄奇人は、茶州にいる友人から届いてた手紙をを読んでいる最中に固まり、それから動かなくなった。

いつもならば何かしら反応を示すのだが、何の反応も示さないあたり余程の内容なのだろう。
戸部侍朗である景柚梨は、そう思い立ったのと彼を心配したのと―恐らくは六分四分の割合であろう―で、尋ねてみた。

すると、大きく息を吐いた奇人はポツリと返事をした。


「悠舜の妹君が倒られたらしく、体調を回復されるまでの間私に面倒を見てほしいと頼まれた」

「ええッ?」


鬼才と謳われた鄭悠舜の妹が倒れたという事実と、その妹の世話を奇人に頼むということに対して正直な心情が言葉として表れた。

同時に、柚梨はこの時初めて彼に妹がいたことを知った。


「そう言えば、初めて知りましたが、妹君がいらっしゃったのですね」

「私も今知った…」


長年親友だと思っていた彼に、妹がいたことを今日初めて知った。
文中から読み取れるように、彼は本当に妹を大切に思っている。


“絶世の美貌、妙なる才媛と名高い、私の愛する妹”


その妹を自分に託し、庇護を頼みますとつづられていることを思えば、彼に信頼されていることが分かり嬉しく思える。
けれどその反面、その大切な妹を今日の今日まで教えてもらえなかったことを思うと少々複雑であった。


出会ってから十二年。
一度も家族の事など聞いたことがなかった。
否、聞けるような感じではなかったということもある。


まあ、どちらにしろ、この暑さで屋敷に戻ることもままならないだろうから、彼の心配は杞憂に終わるだろう。

文末に大々的に記された文章を読み返しながら呆れつつも、彼のここまで言わせる妹に興味を持ったことは内緒である。


“私の美しい妹に手出しをすれば、たとえあなたとは言えど許しませんからね”


彼が存外に妹バカであると知った奇人は、この事実を屋敷に忍びこんできた黎深へと伝えた。
その瞬間、彼の表情は蒼白となり、ブツブツとつぶやきながら自邸へと戻っていことは後の話である。



To be continue...


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