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『劉輝様、この様な所にいらっしゃられたのですか?』


いつもの様にフラフラと庭園をぶらついていた彩雲国の国主・紫劉輝は、目の前に現れた美貌の女官に大きく溜め息をついた。


「余がどこにいようと、どこに逃げようとも、婉蓉にはすぐ分ってしまうのだな・・・」

『もちろんでございますわ
(わたくし)が劉輝様に御仕え申し上げて、何年になると御思いで―…?』


ニッコリと優艶に微笑む美貌の女官に、劉輝は嬉しそうな、けれど複雑そうな笑みを浮かべた。


(婉蓉は余を見つけるのが上手すぎるのだ・・・)


そう、この美貌の女官は、国主・紫劉輝を見つけるのが本当に早いのである。

朝議をサボり、書く省の長官からの面会も断り続けるこの国主に、高官たちももはやお手上げ状態なのである。

その国主を探し出し、あまつさえ最低限ではあるが、政務を行わせているのがこの美貌の女官・婉蓉である。

その為、後宮はもとより、官吏達の間でもこの女官は崇められていた。
しかしながら、本人はその様な事など我知らぬとして振舞う。

それがより一層、周囲の羨望の視線を集めるとも知っていても―・・・。


『さ、劉輝様、御召し換えを…
陽が暖かいとはいえ、季節はまだ春でございます

その様な薄衣(うすぎ)では風邪をお召しになりますわ』


いつもの如く目の前の国主に手を差し出せば、これも当然の如く手を伸ばし、しっかりと握り締める。

2人は、さながら姉と弟の様に仲良く手を繋ぎ、後宮の私室へと向かった。







「貴妃が、来るそうだな…」


私室に戻り、婉蓉が淹れた甘露なお茶を飲んで一息ついた後、ポツリと溢した。
苦渋の表情を浮かべながら、また一口お茶を口に含む。


『王ともなれば、妃の一人や二人いても可笑しくはありませんわ
これを期に、妻を持たれては如何ですか?』


貴妃を迎える事に否定的な王を嗜めるように、婉蓉はサラリと口にした。


「余には婉蓉がいればいい…」


貴妃などいらない、続けたられた言葉に、婉蓉は嬉しそうに微笑んだ。


『劉輝様にはもっと若く美しい姫君が相応しゅうございますわ
妾の様な年増女に何を仰られるのです』


困った様に微笑みながらも、どこか嬉しそうに微笑む。
年増と自身で言ってるこの美貌の女官、実は若く見えるものの年齢は国主・劉輝よりもずっと上である。

外朝にまで轟く美貌の才媛・婉蓉の評判を思えば、妃として後宮に入内してもなんら可笑しくはない。
しかし、この純粋な主に対して抱く感情は、“恋”ではなくもはや“愛着”に近いものだと自覚してる。

故に、羽羽にいくら入内を頼まれようとも、断り続けてきた。


“婉蓉殿、主上の妃になって下されーっ!”


羽羽の必死な言葉を思い出しながら、不意に笑ってしまった。
どれほど真剣な面持ちで言われようとも、その愛らしい容貌を思うと微笑んでしまう。


(羽羽様のお人柄というのもあるのでしょうけれど…)


数いる高官の中でも、最もまともで穏やかな人物であるとして多くの者に慕われている。
どこかの狸とは雲泥の差である、と胸中で細く笑った。





 

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