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「府庫に行けば……もう、一人でなくなった、それでも―」
夜になれば一人に戻る。
それが何より辛かった。
手に入れた安らぎや温かさも、夜になれば消え失せ、一層寂しさを煽ってしまうから―。
「夜は、嫌いだ…一人で眠ることも
暗闇の中に一人でいると、色々なことを思い出してしまう
嫌な記憶が、引きずり出されてしまうんだ
しばらくして、婉蓉が帰って来た…
けれど以前の婉蓉ではなく、やせ細り、優しかった笑みはどこか寂しさを抱いていた」
毎夜魘される自分を思って、子守唄を琵琶で奏でてくれた。
けれど、婉蓉が悲しいせいか、音色までも悲しく聞こえてきてしまって―いつも眠れなくて彼女を困らせてしまった。
寂しい、寂しいと泣く自分を、いつまでも婉蓉は慰めてくれた。
それきり、劉輝は口を閉ざした。
だから婉蓉を抱いた
慰めるため、寂しいのは自分のはずなのに、そう言い聞かせて泣き崩れる婉蓉を抱き続けた
けれど、それが仇となってしまった…
女を抱くということが“生殖行為”であると、劉輝はこのとき自覚した。
劉輝の子供を身ごもってしまった婉蓉は、すぐさま他の公子たちに狙われた。
もしかしたら、劉輝の知らないところで辱めを受けたのかもしれない。
そして――毒を盛られて、流産してしまった。
それ以来、劉輝は婉蓉を抱かなくなった。
代わりに女官を抱くようになり、いつしかそれが侍官へと代わっていった。
ポタリ、と劉輝の顔に雫が落ちてきた。
視線を上げてみれば、秀麗が泣いていた。
「なぜ泣く?」
涙を拭えば、秀麗は自分の馬鹿さ加減に呆れたと返し涙をぐしぐしと拭った。
それが劉輝が秀麗に惹かれた理由なのかもしれない。
ふと、傍に置かれた二胡が目に入った。
「…秀麗、二胡を、弾いてくれ」
無言で二胡を取り、弾く秀麗。
どこまでも優しい音色に、劉輝はそっと瞼を閉じる。
“婉蓉とは違う、どこまでも優しい音だ…”
劉輝が求めた“優しさ”が詰まった音色に、秀麗の二胡は真珠の様だと呟く。
優しくて、柔らかな、羽のような音色。
音が真珠へと変わり、室内に輝き、響き渡る―玉響の音。
撫でる様な柔らかな音色に、心は震えはみるみる内に消えていった。
そしてその音に誘われるように、劉輝は眠りについた。
To be continue...
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