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「邵可様とは面識があったのか?」


内朝との境まで送ってもらった絳攸は、先程の会話から抱いた疑問を解消すべく問いただした。

ピクリと眉が動いたが、流石は年の功と言った所か、直ぐにニコリと表情筋を駆使した笑みを貼り付けて答えた。


『妾は劉輝様に御仕えする以前より、私事にて邵可様とは面識がございました』


中り障りのない返事を返して、直ぐにその場を去ろうとした。
だが、絳攸に手をしっかりと掴まれてしまい、立ち止まる。


『まだ、何か?』


ジロと視線を投げつけられ、手を御放し下さいませ、と謂わんばかりの冷たい視線にウッと唸った。
だが、ここでは引けないとグッと踏みとどまり、ああと小さく返事をした。


「先程邵可様は、主上にとっても大切な方だと言っていた
主上付き女官としてではなく何か主上本人とあるのか?」


正直、婉蓉にとっては一番触れられたくない事だった。


『幼き頃より親しくさせて頂いておりました故…』


当たり障りのない言葉で返すが、目の前の青年は納得しなかった。
観念したかのように、クルリと身体を対面させ、視線を合わせながら徐に口を開いた。


『……妾は、劉輝様の添い臥しの相手を勤めさせていただきました』

「添い臥し、だと?」

『はい
全くこのような所で申し上げることでないのに…』


場所を考えられない男だ、と暗に言われていることに気付いた絳攸はどこか肩身が狭かった。

だが、今の言葉で劉輝が女もイケルという事がわかり、これが他の官吏に知られれば、婉蓉の身にも危険が及ぶということは絳攸にも直ぐに理解できた。

それを思えば、やはり申し訳ないという思いが湧き上げるのは当然である。


『もう、よろしいですか?
出来ればあなたとはあまり話しこみたくないのですが』


嫌そうに顔を歪める婉蓉に、心外だと絳攸はムッとした。


「俺も仕事でなければ誰が女なんかとッ」

「こらこら、絳攸…
女人をそんな風に怒鳴ってはいけない、と前にも言っただろう」


ハッと後ろを振り返れば、藍の衣を纏った精悍な顔つきの美青年が立っていた。
後宮女官としても最も会いたくない相手、藍楸瑛だった。

婉蓉は内心ガックリとうなだれた。


(遅かった…)


「絳攸、君も隅におけないね…
美貌の才媛と名高い婉蓉殿と、こんな往来で逢瀬だなんて」


ニヤニヤとからかい混じりに告げる楸瑛に絳攸は、この常春頭がッ!と怒鳴りつけている。
その様子は、もはや名物と化してもなんら支障もないと婉蓉はクスクスと笑った。


「な、なんだッ、何が可笑しい!」


自身の醜態を晒し、しかも大嫌いだと豪語する女人に笑われた絳攸は、顔を真っ赤にして叫んだ。

だが、その叫びは虚しく婉蓉は猶も笑い続けた。
流石に我慢のならなかった絳攸は、今にも食って掛かりそうなほどに拳を強く握り締めていた。


『申し訳ありません…鉄壁の理性殿が余りにも感情を露にして叫ばれるものですから』


薄っすらと瞳に溜まった涙を指で払う。
だが次の瞬間、彼女の表情は一変した。






 

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