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「君は……籠の鳥になるという事がどういう事なのか、分かっているのかい!?」

『はい』

「行けば藍州から、藍家本邸からは一生出られないし、玉華がいるから妻にもなれない
もしかしたら、側室にすらなれないかもしれないんだよ!?」

『分かっています』

「もう二度と…兄君にも会えない

分かっているのかッ!?」



『構いません』



きっぱりと婉蓉は言い放った。

揺るぎ無い瞳に、彼女の覚悟が伺えた。
迷いも、不安もない。
覚悟が決まった、そんな瞳だった。


『いいのです……分かっています
籠の鳥になる事がどういう事なのか、十分理解しております

十四年前、何故妾も一緒に連れて下さらなかったのも、全ては妾を思っての事だとわかっています』

「だったら――」


 何故来たんだッ!?


そう続けられるはずだった。
けれど、花王の口からその言葉が紡がれる事はなかった。

その代わりに彼の口から零れたのは、嗚咽だった。
気付かぬうちに彼は涙を流し、幾筋もの涙が彼の頬を濡らしていた。


『そんな事など、どうでもよいのです
あなたと離れるなど、もう我慢出来なかった』

「ッ!」

『妾はあなたとともにいます
誰に何を言われようとも、あなたとともにあります』


花王の指が、婉蓉の頬を伝う。
互いに瞳を覗き込めば、瞳は揺れる。

震える指先が、揺れる瞳が、二人の心を表していた。


前が…よく見えない
彼女の顔を見たいのに、こんなに近くにいるのに

涙で滲んで、何も見えなくて
言葉も紡げなくて

もっと彼女を見たいのに
もっと伝えたい言葉があるのに

いや、だめだ

私は決心したんだ
彼女を手放すって

彼女は、籠の鳥になるような人じゃないって―
そう、決めたんだ!!



『二度と離れたくないの
ずっとずっと寂しかった、苦しかった……

どんなに辛くてもいい
だからもう、放さないで』


だめだ!
その言葉は言わないで

言われたら、もう、君を――



『傍にいさせて』


――手放せなくなる…


『愛してるの……』



 アア、リセイガ…

 コレマデノオモイガ…




『愛してるのッ!』



 オトヲタテテ…

 クズレテイク




「婉蓉ッ…!」



花王は抱きしめた。
強く、強く。
もう離れない、放さないとばかりに、強く抱きしめた。


「私もだ、婉蓉……」



 ――――愛してる



何度もそう口にした。
まるでその言葉にしか知らぬ、幼子の様に。
何度も何度も、そう続けた。


「…婉蓉……君がいないと、生きていけないッ!」





あの雪の日、二人の心の花は別れと共に散り去った。

だが、十四年の時をかけて、やっと牡丹と藤は共に咲き誇る。
共に生き、幸せになる為に。

まるで運命に導かれる様に……。


End...


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