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『その件につきましては、妾から申し上げることなど何もございません』


スッと瞳を閉じ、どこか寂しさを帯びた表情で告げられた言葉に、静蘭はそうか、と返事を返すと回廊の前にある藤の木にそっと視線を移した。


“妾から申し上げることなど何もございません”


婉蓉の口から紡がれた言葉に、静蘭はやはり、とどこか納得していた。

彼女は劉輝を愛している。
それが恋愛の情なのか、親愛の情なのかは分らない。

だが、間違いなく愛している。

その愛する劉輝を不可抗力とはいえ、長年一人きりにさせていた自身が今更兄面するのが好ましくないのだろう。

だから、“妾から”などと静蘭と距離を取る言葉を口にしたのだ。
自業自得とは言え、初恋の相手にそんな態度を取られてしまった事に、静蘭は小さく溜め息を溢した。


(私ともあろうものが、この程度の事で気落ちしようとは…)


遅い初恋の痛手に、苦言を漏らしながらも彼女とまたともに言葉を交わすことが出来たと、どこか表情は和らいでいた。





(なぜ侍官を傍に侍るですって!?
劉輝様がどれ程御待ち申し上げていたかなど、清苑様ならば考えずとも御分かりになる筈ですわッ

妾とて、あの様な振る舞いはお控え下さいまし、と申し上げましたわッ
それでも、劉輝様は頑なにお言葉を覆しはしませんでしたわ…)


“私は妃は持たぬ、女人も抱かぬ…玉座にも就かぬ
玉座は、兄上のモノだッ”



帰ってくるはずもない公子を未だに待ち続ける劉輝が、哀れで、そして愛しくて仕方がなかった。


婉蓉は静蘭が清苑だと一目で気付いた。
それは、公子時代のこともあるが、宮城に勤めていた静蘭を今までに見かけた事があったからである。

それなのに、静蘭は劉輝に会いに来ようとはしなかった。

自分勝手な怒りだと分っていても、婉蓉には許せなかった。
人知れず後宮に入り込むなど、静蘭ならば出来たはずだ。


待って待って、自身の風聞など気にも留めず、それでも兄を待ち続ける劉輝が哀れで為らなかった。




『もう夜も更けて参りましたわね…』


春とはいえ夜の風は未だ冷たさを帯びている。
早くこの場を去りたいが為に、差して冷たくもない風を大げさにとらえる。

沈黙が続き、居た堪れなくなった婉蓉は、先に失礼しますとその場をさった。

静々と歩を進める、夜目にも分る優雅な後姿を、静蘭はただじっと見つめていた。






 

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