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「何しに来た」


庭園を散策していた花王を、冷たい声が呼び止めた。
振り返れば、そこには玄冥の如き男の姿。

射殺さんばかりの視線で彼を見つめていた――。


「君は相変わらずだね……葵皇毅」

「もう一度言う、何しに来たッ」


花王の言葉に返事を返す事無く、間髪入れずに皇毅は問う。


何故お前がここにいるのか。
何故お前が今更。


溢れ出る怒気を押さえ込みながら、皇毅は搾り出す様に吐き棄てた。
向けられる怒気は当然だった。

彼が彼女を可愛がっていたのも知っていた。
あの当時、数少ない彼女が気を許していた人物。


「わたしの姫を、迎えに来ただけだよ」


彼には言わなければならない。
そう思った花王は正直に彼の問いに答えた。


「迎えに来た、だと…?」


怒りと共に滲み出た声色。
そして次の瞬間――。



――バキッ!!


数拍の後、花王は天を仰ぐように倒れこんでいた。

ジンジンとした鈍い痛みが頬を襲う。
その痛みでやっと自分が殴られたのだと気が付いた。

ゆっくりと身体を起こして立ち上がる。

頬が痛かった。
いや、それ以上に、拳に込められた想いが痛い程花王の胸に突き刺さった。


「十四年前、俺が言った言葉を覚えているか?」


皇毅の低く、暗い声色。
嘗ての彼の言葉が蘇える。


“あれを傷つける事は許さん

あれを泣かせる事は絶対にするな”



そう、彼は言った。
そして自分は約束したのだ。


“絶対に傷つけない、泣かさない”


それなのに――。


「ならば何故泣かせた!?
何故傷つけた!?

あの後、あれがどれ程傷つき、泣いたと思っている!!
どれ程悲しみ、打ち(ひし)がれたか、お前は分かっているのか!?

それを……それを今更ッ!!」


皇毅の顔が初めて怒気以外に歪む。
今彼の脳裏を占めているのは、花王に対する憎しみでも怒りでもない。

この十四年間見続けた、婉蓉の泣き顔だった。


「あれに会って、お前は何と告げる?

今更……“迎えに来た”では済まさんッ!!」


そう吐き捨てると、衣を翻しながら皇毅は去って行った。
その場に残された花王は、蒼白な表情で佇んでいた。

皇毅の言葉が痛い程胸に突き刺さる。



To be continue...


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