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戰華王の様に強くはない。
劉輝は父の様になりたいとも思わないし、なれる筈もなかった。

羽羽も彼の様になってほしいとも思わない。

悩み、苦しみ、喘ぎ、もがき、そして涙する。
それでいいと思っている。


覇王の時代は――力で全てを解決する時代は終わったのだ。

これからは劉輝の様に優しさと、弱さに苦しみながらも前に進む人の時代だと思っている。

頼りない王かもしれない。
けれど、絶対的な存在であった貴族の力が薄れつつある今だからこそ、心に重きを置けるのだ。

そんな時代が来ればいいと思っていた。
自分だけではない、きっと彼女もそう望んでいる筈だ。

今は苦しいかもしれない。
けれど、いつかこの苦しみが大きな実りへと変わる時が来ると羽羽は信じていた。


劉輝はただただ涙を流し続けた。
答えが見つからない事に、過去の自分の所業を恨み、悔やみながら―。

泣いている劉輝に悟られぬ様、羽羽は嬉しそうに瞳を細め、ほっこりと笑みを浮かべた。






「もう、いい……」


一頻り泣いた劉輝は、ゆっくりとした動作で羽羽を腕から解放した。
涙に濡れた顔を見られたくはなかったが、即位前から羽羽にはこうして情けない所を見られているのでそれ程気に病まなかった。


「もう大丈夫なのだ」


グシグシと乱暴な所作で涙を拭い、続いてニッコリと満面の笑みを作った。


「婉蓉姫がお話になられたのですね」


羽羽はサラリと言ってのけた。
幸い、人払いをしていた為、羽羽の言葉を耳にした者はいない。

ホッと安堵の息を吐くと同時に、婉蓉を“姫”と呼び、敬意を加えた言葉を選んだ事に、彼女の秘密を知っていたのだと悟った。

同時に、あの時の自分に対する制止は、こういう危惧を避けるためだったのだと―。



「余は……どうすればいい?」


あの冬の日から劉輝はずっと悩み続けた。
誰にも悟られぬように――嘗て救いの手を求めて庭園の木陰に隠れていた頃の様に、一人で思考を重ねた。

だが答えはちっとも出てこなかった。
それどころか、出口のない迷宮の中にどんどん突き進んで行っている様な気がしてならなかった。

どうすれば彼女が平穏に暮らせるか。
彼女は紅家にも縹家にも行きたくない、そう言葉の端々から訴えていた。

だからもう、婉蓉は後宮に永くいるわけにはいかなかった。
紅家に知られる前にどこか遠くへ、もしくはそれ相応の身分の者に嫁ぐか。

二つに一つだった。


特に縹家に関しては血を重んじる家柄。
巫女としては使えなくとも、薄まりつつある“蒼家”の血を濃くする為に、必ずや何かしてくる。

それを防ぐ為に、彼女の今度の為に自分は何をしてやれるか。
劉輝は知りたかった。

王としても、劉輝としても…。
だから問うた。

羽羽は答えなかった。
答えを持っていたが、それを告げる事を躊躇する様に沈黙が走った。






 

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