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「ッ…婉蓉!?」


差し出された茶の好い香りに、ハッと我に返った劉輝はいつのまに、と驚いた。


『先程からずっとおりました』


気付かなかったのはあなた様ですよ、言外に言われている様な気がしたが、劉輝は気にしなかった。
そうか、と告げると、貴妃―いや本人は気付いていないだろうから女官からと言う方が正しい――から渡された饅頭を取り出し、口に運ぶ。


「やはり上手いな…婉蓉も一緒に食べよう」


ニッコリと微笑む劉輝に、満面の笑みは久方振りだと胸中で呟いた。
ポンポンと自身の隣の腰掛に合図を送ると、婉蓉はいつもの様に少しだけ困った様な笑みを浮かべて座った。


(妾も貴妃の事は言えませんわね)


純粋な主の瞳に、最後は結局何でも頼みを聞いてしまう自身を咎めながらも、貴妃から受け取った饅頭で茶会の二次会を行った。


「そうだ、明日の衣は別の物を用意してくれ
余は今、藍楸瑛と名乗っている…」


これでは秀麗にバレてしまう、続けられた言葉に溜め息を吐かずにはいられなかった。


(もうバレてしまっていると思います…)


存外に抜けている主の言葉に大きく息を吐いた。
切れ者なのか、抜け者なのか、実は彼女自身も測りかねていた。









「婉蓉ッ!!」


バンッと勢いよく開けられた扉から劉輝が今にもくって掛かりそうに入ってきた。


『如何いたしました?』


キョトンと首を傾げる婉蓉に、内心可愛いとと思い、ウッと留まった。


(いや、違うッ!)

「紅貴妃の事だ…昨日の女官が貴妃だとそなたは気付いていたのだろう?」


『はい、もちろんでございます』


ニッコリと微笑み、まるで当然かの如く返事をした婉蓉に劉輝はガクリと項垂れた。


『妾は後宮にいる女官の全てを把握しているおります
知らぬ方が可笑しいではありませんか

それとも、存じ上げませんとお答えすればよろしかったのですか?』


ニヤリと凄みを増して微笑む婉蓉に、劉輝はブンブンと頭を振って答えた。
結局この美貌の女官には敵わない。


『貴妃とはどのようなお話をなさったのですか?』

「八年前の王位争いの事だ…」


婉蓉の目がスウと細められ、そうですかと小さく返事をした。
劉輝も釣られる様に表情を曇らせた。


『それで、答えは出ましたの?』


優しく、けれど少しだけ困った様に微笑みながら問う婉蓉にコクリと返事をする。


「余は、政をする…」


その言葉に、嬉しそうに笑みを浮かべる。
劉輝はこの笑みが好きだった。

いつも厳しい表情の婉蓉だが、時折見せるこの笑みが劉輝は大好きなのだ。


『しっかりとお励みになって下さいましね』


ああ、と嬉しそうに笑う劉輝。
ほのぼのとした空気が室に満ちた。


上治元年春。

それまで(まつりごと)に一切の興味を抱かなかった王は、一人の少女に魅せられ、王の道への一歩を踏み出した。


後に最上治と謳われる、紫 劉輝陛下の御代の始まりである。



To be continue...


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