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『女官長は、妃のいない今の後宮では不要の存在です
高官の中には、妃が後宮を辞した責任を“女官長”に向ける事が当然とされております

今妾が辞さねば、どうなるかお分かりですね?』


――妾を後宮から追い出すのです


向けられる視線がそう告げていた事が理解できた。

王が妃を手放すなど、余程の事がない限り許されない。
子が産めない身体であるとなれば話は別ではあるが―。


婉蓉も仙洞省も彼女が“そう”だとは知っていた。
けれど、本人すらも知らぬ事実を公表するわけには行かなかった。

なにより、何故二人がその事実を知っているのかを問われれば、何も答えることは出来ない。
何故そんな女を仙洞省が許したのか。


知っていたにも関わらず、何故霄太師は紅家の姫を入内させたのか。

教育係という名の下に入内したとなれば、王家を馬鹿にしている、と臣下の貴族派の紅家への不満が募るばかり。

妃が自ら王宮を辞す、というのならば、それを説得するというのが女官長の勤め。
それを果たせなかった者に、不信を抱くのは臣として当然だった。

自分のとった人事が、これ程までに彼女を苦しめ、紫家と紅家を揺さぶるもの事になるとは思っても見なかった。

知らなかったでは済まされない。
重大な事実だった。


婉蓉はもう、紫家にも縹家にも紅家にもいられない。
女官となり、公子時代とは言えど王の子を身篭った彼女をこの三家が許すはずもなかった。

とりわけ、縹家に渡ったとなれば、待っているのは産み腹という事。
紫家にいようとも、同族であるが故に劉輝とは結婚できない。


臣下に降嫁するにも紅家では一悶着が起こる。


問題は藍家―。
家格としては問題ない。

だが、門下省や縹家が許すはずもなかった。

これまで藍家には多くの公主や郡主が降嫁してきた。
これ以上藍家の地位を上げるような真似は、紫家としても食い止めたい所。


せめて女官長になっていなければ。
自分の子を宿さなければ。

劉輝に頭を過ぎったのは、春に行った自身の人事。
そして嘗ての自分の愚行。

そう、彼女を苦しめていた現況が、全て自分にある事を悟った。


 どうすればいいのか?

 どうしたらいいのか?


劉輝の脳裏を巡るのはその言葉だけだった。

どうすれば、彼女を開放できるのか。
どうすれば、彼女を守る事が出来るか。

答えの見つからない問いに、劉輝は悩み、もがき、喘いだ。



To be continue...


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