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『後宮に上がってから、ずっとでございます
本当は、清苑公子が流罪になられた後にでも辞すつもりで……』


語尾を濁す婉蓉の言葉に、劉輝の目が驚きに見開かれた。
その言葉どおりならば、自分が生まれる前から彼女は後宮を辞すつもりだったという事だった。


『先王陛下にも、釘を刺されておりました』

「父にか?」

『ええ……お前は後宮に相応しくない、いずれお前が争いの元になる、と――』


そんな前から父が婉蓉を気に留めていたという事実に、劉輝は更に目を見開いた。

何故、としか思えなかった。
それが本当ならば、何の為に後宮にあがったのか。


「何故……?
婉蓉、そなたは一体何者なのだ?」


搾り出された問いに、彼女は大きく息を吐き出した。
次いで、力強い眼差しを劉輝に向けると、徐に口を開いた。


『妾は、紫家の血を引く娘でございます
父はご存知の通り庶民ですが、母は公主です……母の名は、紫柳娟

先々王陛下と先の紅家直系の姫・紅玉環様の息女でございます』


紡がれた驚愕の真実に、劉輝は何を言われたのか理解できなかった。


紫家の血を引く娘?

紅家直系長姫の先々王の娘が母?

それでは、婉蓉は――


「私の、同族……という事か?」

『恐れ多くも…』


瞼を閉じる、その所作が何よりの答えだった。
そして劉輝は何故父が婉蓉に対してあんな言葉を向けた事を理解した。

先々王の孫で、紅家直系の姫の孫―。
嫡流とまでいかないが、限りなくそれに近い血筋。

紫家も紅家も、その重い家名を継ぐ人間が余りにも少ない現状を考えれば、争いの種でしかなかった。

自分と婉蓉との事を危惧していた羽羽を考えれば、仙洞省は既に知っている。
彼女が何故後宮に上がったのは―。


「縹家、か?」

『はい…』

「そうか」


縹家が紫家の血を引く生娘を欲している。
だから、もう生娘ではない婉蓉は後宮を辞す。


そして後宮に紅家の姫が貴妃として入内した折に、婉蓉が女官長にたった。

それほど高貴な出自でもないはずの彼女が何故女官長に立ったのか。
紅家が不振に思わないはずもなかった。


彼女が琵琶をよく弾く事を考えれば、全てが繋がる。
いや、天つ才を持つ紅黎深であればすぐに―。

いや、紅黎深であればまだいい。
彼はこういった事に興味はないのだから。

だが、紅玖琅に露見するとなると話は別だった。
彼は紅黎深を当主に据えた豪腕である。
どんな事をしてでも、婉蓉を紅家に迎え入れるだろう。


そして縹家に渡った筈の公主が庶民の男と結婚して、子まで成したとなれば、その罪は兄である鄭悠舜にまで回る。

仙洞省や劉輝が許そうとも、縹家が許しはしないだろう。
もし露見すれば、間違いなく紅家と縹家間で一騒動が起こる事は目に見えていた。

劉輝は全てを知った。
余りにも重過ぎる真実を。

何故彼女が、高位女官になろうとしなかった理由も―。
同時に、自分が彼女を女官長に立ててしまった事がこれ程の火種を捲いた事を―。






 

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