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『ごめんなさいね……ずっと来れなくて
寂しかったでしょう?』


多くの巨大な陵墓の片隅にひっそりと佇む小さな墓標。

紫紺野牡丹、白梅。
小さな墓標に備えられた冬を彩る花々が、寄り添うように祭られている小さな命の安らかな眠りを誘っていた。

その墓標の前で膝を折り、麗しい顔(かんばせ)の妙齢の女人が手を合わせ、ただただ祈っている。

普段纏められている髪は結い上げられることもなく背を流れ、墨色の衣と相俟って、女人の真っ白な顔を一層引き立たせていた。


“残念ですが、流産でございます
公主様でいらせられました…”



脳裏を過ぎるのは、五年前のあの日―。
寒い冬の日だった。

王位争いが幕を閉じようとしていた矢先の出来事。

あと二月。
あと二月胎内で育んでいれば、小さいながらも生き延びる力を得られていたはずだった。

けれどその小さな命は、その力を得られないまま外の世界に引きずり出され、母の腕に抱かれる事なく天へと上っていった。


(罰が当たったのだわ…)


小さな胸の呟きは、痛いほどに自身の胸に刃の如く突き刺さった。
自分で自分を苦しめる。

愚かだと分かっていながらも、ココへ来るとそうせずにはいられなかった。
新たな命を宿しながら、公子の寵愛を賜りながら、己はその事をずっと悔やんでいた。


どうすればいいのか

どうすればこの苦しみから逃れられるのか

どうすれば、この子を産まずに済むのか


そんな事ばかりを考えていた。
だから罰が当たったのだ。

世の中には、産みたくとも産めぬ女が数多大勢いるのに。
自分が母となれる喜びを得られる、恵まれた女であるというのに―。

小さく笑み―どこか己を嘲笑う、自嘲の笑みを浮かべる。


『もう、来れないかもしれません

妾は後宮を去る事となります
来年も、再来年も、その先もずっと…

会えなくなります……寂しいけれど』


今になって、我が子に会えなくなるという事実を突きつけられて、初めて寂しいと思った。
今まで抱かなかった思いが、彼女の心をかき乱す。


『お父様は、いらっしゃらないかもしれません……これからも
あなたの事を、忘れられたのかもしれません

けれど、あなたが妾の中に宿ったときは、本当に、本当に喜んでおられいました
その事実は、変わりません』


――だから、それで許して…


祈るように搾り出された言葉に答えるように、穏やかな風が彼女の頬を撫でた。


(優しい子…)


撫でた風があの子の様に思えた。
大丈夫、私は寂しくなんかない、そう言われている様な気がした。

少しだけ彼女の心が軽くなった。
そんな気がしてならなかった―。






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