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弱い者を救う為と言いながら、結局その弱い物の手を振り払って生きてきた。
そんな矛盾を繰り返していた。

一族の者が自分の言葉に最後まで耳を傾けなかったのは当然だった。
自分こそが、一族の誇りを一番傷付けていのだから。


それを、“彼女”が教えてくれた。

嘗ての自分の行動が、いかに愚かなものだったこと。
弱き者を救うと言う事がどういう事なのか。

その全てを、“彼女”は自分に教えてくれた。
だから、思った。


――今度は自分が助ける番だ


“彼女”はきっと今苦しんでいる。
誰よりも重い鎖をたった一人で背負い、引き摺り、それでも逃げずに一人で戦っている。

自分しかいない、そう思った。
この閉ざされた闇の空間―時の狭間―にいる間、蓮は大きな力を得た。
彼女の負担を軽減できるほどの。
だから決意した。


“彼女”の元へと行く事を―。



『わしは、“彼女”の元へ行こうと思います
否、行かなければならぬ

“彼女は”きっと今も苦しんでいるのです
孤独に脅え、狂いながらも、それでも“彼女”は一人で戦っています
わしは、わしは“彼女”助けとなるべく、か弱き者を救うべく、この世界に使わされたのじゃ

今行かねば、ここに来た意味はないのじゃッ!』


力強い瞳で、蓮ははっきりと告げた。
迷いも、絶望も、以前巫女が見た彼女とはまるで違っていた。
それは目の前の娘の固い決意の証。


(本当に…不思議な娘ね)


巫女姫は胸中でそう囁いた。
彼女も苦しんでいた。
絶望に打ちひしがれていた。

だから、ここで楽になればいいと思っていた。
けれど、この娘もまた“あの娘”と同じように、強い決意を持って出て行くと決心した。

そう決めたのならば、もう自分が何かを言う必要はないと思った。
自分に出来るのは、彼女がここを出るのを見守る事しかないのだ。


「そう、出て行くのね…わかったわ
方法は言う必要はないわね、あなたはもう既に知ってるのだから」


コクリと蓮は頷いた。
何の為にこの部屋があるのか、それすらも、彼女は理解した。

出ようと思えば直ぐに出られた。
けれど、どうしても聞きたかったことがあったから――。


『巫女殿には、どうしても言っておきたかったのでな』


ふふ、と巫女姫は笑った。
いつもの様に、優雅に優る高雅な所作で袂で口元を覆いながら。
そして、手にしていた紅い傘をそっと彼女に差し出すと、ふわりと軽やかに闇の空間を飛んで行った。


――ピリッ…


紅傘に触れた瞬間、“ナニ”かが蓮の脳裏に流れ込んできた。


死肉の焼ける光景、処々に群がる魍魎の屍。
青年の柔らかな微笑、不思議な気を纏った八人の―。


(これ、はッ……!)


蓮はソレが何なのか、直ぐに理解できた。


『巫女殿、あなたはもしやッ!!』


闇に溶け込むように、巫女の柔らかな笑い声が落ちてきた。
蓮は光に包まれながら、後に続けられた巫女の言葉を拾った。



そして、こつと地に足をつけると、目の前には壮大な宮がいくつも並んでいた。
彼女の手には、差し出された紅傘がしっかりと握られている


『外に、出たのじゃな……』


ヒヤリと感じる空気が、“ココ”が現実だと告げていた。
夢でも幻でもない。
ここに、“彼女”がいる。

“彼女”に会える、そう思うだけで自然と胸が高鳴る。
そしてしっかりと握り締めた紅傘を一瞥すると、ポツリと小さく囁いた。


『あなたが御創りした縹家は、必ずやわしがお守りいたしましょう………蒼遥姫様』







「そうよ、わたくしは……蒼遥姫、と呼ばれていた頃もあったわねえ」






 

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