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「縹家が出席するなど聞いていないぞッ!」


陰に隠れて二人の男はひそひそと、けれど怒気を隠す事なく語る。

紅藍両家だけではなく、縹家までもが名代ながら朝賀に出席した。
しかも、彩月の存在によって――。

せっかく己たちが功を起てる絶好の時期だったのに、と苛立つ。


「どうする、やるのか?」

「やるさ…女に何が出来るッ」

「だが、巫女が二人もいる上紅藍まで――」

「だからだ!!
紅藍がいる前で散々偉そうにしていたあの女を叩きのめすのだ
陛下も、これで目を覚まされる」


言い包められるがまま、弱気な発言の男は頷いた。
渋々といった感が否めない。

どうもこの二人、やる事にかんしては共闘しているが、やる気が随分と異なる。
互いにそれに知ってはいるが、気付いていはいない。


「朝賀の間に起こせば、それだけ目を覚ます人間が多いという事だ
紅藍も、あの女に一杯食わされたんだ

腹の底では何を考えているのか分からんが、両家があの女を守る理由はない
今が好機だ」

「わ、分かった…」


言い包められるまま、二人はその場を後にした。
これから起こる惨劇は誰にも予想出来ない、と決意を胸に秘めて。










「お久しぶりです、彩月殿」


朝賀の後、王に呼ばれた彩月は執務室へ赴いた。
そこには、同じく王に招かれた柳玉がいた。

柔らかく微笑む彼女に、安堵の表情が自然と浮ぶ。
同性であり、同じ志を持つ巫女だからだろう。


「瑠花様も、羽羽殿もお元気です、璃桜様も…相変わらずですが」


一番聞きたかった瑠花姫の事を、一番先に告げる彼女。
一族の誰もが、彩月が瑠花を誰よりも愛していた事を知っていたから――。

柳玉は、蓮が縹家に身を置くようになって初めて出来た友人でもあり、姉であり、妹でもあった。

彼女の口から紡がれた言葉に、ホッとした様に嬉しそうに笑みが零れる。
少しだけ彩月が蓮に戻る瞬間だった。


「もちろん、櫂瑜殿もお元気ですよ」


櫂瑜が彩月を慕っているのは縹家では周知の事実。
だが、彩月が櫂瑜を気に掛けていると知っているのは、極僅かである。

柳玉がその一人であった。


『………そうですか』


照れ隠しにそっぽを向きつつも、零れるのは安堵の息。
心なしか、頬も薄っすらと紅に染まっている。

政事(まつりごと)にばかり気を置いてはいたが、やはり己を慕ってくれた少年の事は気がかりだったのだ。
今更ながら、己も女なのだと思い知らされた。

ただそれを、一人雄掠だけが一人怪訝な表情で見つめていた。


(櫂、瑜……?)


誰の事を言っているのか分からなかった。
羽羽は羽家の人間で、璃桜は当代当主、瑠花姫は言わずもがな大巫女。

だが櫂瑜は…櫂家の人間であると言う事だけだ。
そもそも、何故櫂家の人間が縹家の人間と面識があるのだ、と不可解な疑問に頭を巡らせる。



「大変でしたでしょう?
この貴陽で、“女”として令君を勤めるという事は、並み大抵の事ではありませんもの」

『そう、じゃな…』


フ、と笑みが零れ落ちる。
彼女に気遣いに、嬉しさから自然と浮んだ。


「今はまだお一人で辛い事もありましょうが、大丈夫ですよ」

『……ん?それは――』


どういう意味だと問おうと思えば、霄が室に入り話は途切れた。

誰かが来るのか、それとも代わりの人物が見つかったのか、と自問自答を繰り返すばかりで、その後の会話など全く耳に入ってこなかった。







 

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