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藍に身を包んだ男は、男とは思えぬ美貌に柔らかな笑みを貼り付け、紅に身を包んだ男は、冷厳な面持ちに射る様な強い眼差しを携えている。
何から何まで彼らの纏う色の如く正反対だったが、受ける印象は正反対だった。

微塵の好きも感じない二人を皆が嚥下しながら見つめていたが、彩月だけは笑みを深くて視線を送る。


(色男ぞろいの、強運の持ち主、女に弱い……だったか?
女に弱いかどうかは知らぬが、色男で強運の持ち主だというのは本当だな)


藍家の男の特徴を思い浮かべていると、その当主と視線が合わさった。
携えていた笑みが一層柔らかくなる。

それに答えるように、彩月も笑みを浮かべて返した。
少しばかり頬を染める辺りが若者らしい。


(…もっと狡賢い狐を想像しておったのじゃが……杞憂じゃな
それと、女に弱いというのも足しておこう)


逆に、紅家の当主と言えば、彩月と視線が交わっても特に表情は変わらなかった。

静かに瞳を閉じ、それ以外は何もしない。
何の感情も伺えない。

藍家の当主よりも、紅家の当主の方が扱いにくそうな印象だった。






「藍家当主・藍世美(せいび)、元旦の御祝いを申し上げます」

「紅家当主・紅慧壁(けいへき)、元旦の御祝いを申し上げます」


優雅な所作で拝礼する藍家当主と、機敏とした所作で拝礼する紅家当主。
相反する二人を、奉天殿にいる百官は固唾を呑んで見つめた。

王は何も言わない。
ただの一言も発しないまま、二人の祝辞を受け取った。

こういった堅苦しいものを、彩月は余り好きではなかった。
早く終われ、金の無駄、と心中で唱えていれば両家当主の挨拶は終わり、ほっと一息ついた瞬間。

ザワリと奉天殿に細波の様な緊張が走った。


「なんだと?」

「本当か?」


ひそひそと挙がる声に、一体何なのだと顔をしかめる。

王も臣と同じ様に驚愕に表情を歪めているのが分かるが、何に対してなのかそれまで何も聞いていなかった彩月は不思議でならなかった。

だが次の瞬間、彩月は納得して笑みを深めた。


「縹家当主名代、御入殿にございます!」


数代振り、いや、およそ百年ぶりの縹家からの朝賀出席。
これには王が驚くのも仕方なかった。



「縹家当主縹璃桜が名代・縹柳玉、元旦の御祝いを申し上げまする」


ゆっくりと、縹家の巫女特有の優雅に優る高雅な所作を持って拝礼する。
その美しい姿に、それまで紅藍両当主の出席に息を弾ませていたもの達は、次々と溜め息を零していった。


「面を上げよ」


まさか縹家までも、と驚きと喜びを隠し切れない雄掠は、擦れた声を震わせながら告げた。
そっと(かんばせ)を挙げれば、額に描かれた朱印が目に留まり、続いて凛とした眼差しに吸い込まれる。

聡明さ強さ、気高さと優しさ。
そのどれもが、瞳を通して滲み出る様に感じ取れた。


彩月とは違った意味で印象深い眼差しの巫女だ、と雄掠は思った。

そして同時に、縹家の巫女は皆こうなのか、とまだ見ぬ大巫女・縹瑠花を想像した。
彩月が敬愛し、目の前に伏す柳玉を従える、大いなる姫。


(いつか…会いたいものだな)


柳玉を目にして、一層彼女への期待は高まった。
そして、縹家の巫女がどれ程優れた存在なのかを、ただその場で佇むだけで証明してみせた。

少なくとも、雄掠にはそう感じ取れた。
後は、臣がどれ程選別に関係なく判断できるかどうかだった。

紅藍両家の出席ばかりか、縹家の出席という前代においても例の少ない豪華な顔ぶれで朝賀は幕を閉じた。







 

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