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『分かっておる……承知、しておる』


霄の言い分は言葉にせずとも理解できた。
彼もまた、不老長寿とは比べ物にならない程永い永い時を生きてきた。


『わたくしがそうなのであれば、それもまた運命…

巫女の資格すらなかったわたくしが巫女となってしまった
これは崇高なる“巫女”を穢した罰なのやも知れぬ

じゃから……これでよい…』


――これで、よいのじゃ


苦笑交じりにそう告げた。
涙も滲まぬ瞳は、それでもどこか哀しみが漂っていて。

不意に、霄の方が胸から込み上げてくる何かを感じ取った。
人間の女とは、何故こんなにも強く、美しいのか。



遥か遠く、記憶の彼方に仕舞い込んだ古の姫の顔が、彼の脳裏を過ぎった。

清らかで、美しくて、御人好しで、二胡が上手で、(りょうり)が下手な娘。
己の心を、何千年と捉えて放さない、稀代の巫女。

哀しくも強い決意と共に縹家を起こした――蒼遥姫。



「これでいいの……わたしはね、わたしと同じ様に、外で上手く生きていけない人を救いたいの

兄様が国の為に生きるなら、わたしはか弱き者を救う為に生きるわ」




別なのだ。
彼女と遥姫とは、全くの別人なのだ。
遥姫とは血が繋がっていない。

それなのに、彼女と重なってしまう。
彩月の中に、彼女を見てしまう…。

もしかしたら、それが“縹家の巫女”ということなのかもしれない。
そう、思えてならなかった。










「話は終わったのか?」


ブスッとふくれっ面の雄掠は、庭園を散策していたのかちらほらと肩に枯葉が付いていた。
気を利かしたものの、持て余した時間を潰す為とはいえ、この時期の散策は本当に冷える。

ブルリと大げさに身体を震わせ、嫌味の如く振舞う。
それが、この王らしいといえばらしい。


「彩月は大丈夫なのか?」


室を出る前に見た、あの表情を思い浮かべれると自然と眉間に皺が寄る。
知りたくとも聞けない。

聞いても彼女は答えてくれないだろう。
それでも、彼女の安否を問わずにはいられない。


「ええ、大丈夫でしょう……ただ――」

「ただ?」

「朝賀も近い事もありますし、最近彩月殿には向けられる敵意も強まって参りましたので、護衛を一人付けようかと…」


それには雄掠も表情を強張らせた。
彼もまた、気付いていた。

彼女に向けられる奇異の視線。
遺恨の念もあれば、嫉妬の念もある。

そして、己と同じ想いを孕ませた視線もある事に知っていた。


「彩月に護衛…」


護衛――つまりは、“男”である。
あの彩月に男を傍に置かせる、という事に、雄掠は大きく唸った。


「主上…いくら主上と謂えども、恋情は挟まないで頂きます」

「なッ!!」


何故知っている、という顔だった。
こういった事には全く興味を見せないくせになんと目聡い奴だ、と思わずにはいられない。


「文句は聞きません
何かあってからでは遅いのですから」


霄に言い聞かせられる様に言われては、わかった、と小さく答える他なかった。
そのまま、霄は執務室を後にした。







 

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