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“妊、娠…?”



“なんてことッ、この大事な時に!”



“お前に子を産んでもらう”



“誰がお前の子など…ッ”



“もっときばって、後もう少し!”



“いやッ、産みたくない
産みたくないッ!”



“おめでとうございます
可愛らしい女の子ですよ”



“娘、…わたしの、娘…”



“この子は私たちが育てます
貴女はさっさと国に帰りなさい”



“お前はもう用済だ”



“いやッ、返して!
私の娘を返してッ!!”





『――ッ!!!』


伸ばした手は、虚を掴む。
冷え込みが激しくなった今、その冷たい朝の空気に夢を見ていたのだと思い知らされた。



あれから一体何年が過ぎたのだろうか。

長い年月を生きてきた。
その間に、娘はどれ程成長したのだろうか。

手元にいたのはたったの三月。
それでも、瞬く間に娘は成長を遂げた。

本当ならば、ずっとその成長を見守っていく筈だった。
けれど、その願いは無残にも夫の親族によって阻まれた。


もっと一緒にいたかった。

もっと成長を見届けたかった。

“母”と呼んで欲しかった。


その小さな願いが叶う事はなく、ただ時だけが惨酷にも過ぎるだけ。
ふと脳裏に浮かぶのは、己の言葉。

王に問われて、つい返してしまった虚言。


“生まれて三月もせずに手放しました”

“何故、手放した…?”

“別に、理由もありませぬ”



あの時、王の問いに蓮はそう答えた。
けれど本心は違った。

誰が手放すものか。
愛しい娘を、愛して止まない娘を――。


『誰が好き好んで、己が腹を痛めて産んだ我が子を…手放すものか…ッ』


暗闇に、蓮の悔しさに満ちた声が響き渡った。
寝台の掛布に、零れ落ちた涙が染み渡る。

一つ、二つ、と涙は止め処なく流れ落ちる。
いつしか、寝台の掛布が色を変えるほどに。

“母”の悲しみは尽きない――。







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