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「まさか、朝議で言うとはな…」

『陛下も気付いておられて?』


返事も漫ろに、雄掠はフウと大きな溜め息を溢す。

誰がとまではわからないが、替え玉を用意する者もいるとは予測していた。
ならば、その娘を候補から外せばよいと思っていた。

だが、よもや彩月が公の場で申告するとは思ってもいなかった。
これには雄掠も計算外である。

これで示唆されたあの男が何か仕掛けてくる、と身構えた。
彩月への護衛を増やしたと身の安全を一層警戒せねばな、とそっと心中で溜め息を溢す。


『中書令のご息女……一応、陛下と相性は良いようですが、如何致しますか?』

「お前が判断しろ」


あの男の娘が後宮に入って大人しく王の訪れを待つとは到底思えず王に打診してみたものの、王は存外に興味はない。

自分から良い娘がいれば、と言っておきながらこの興味のなさ。
彩月は不意に思った。


(陛下は、御子を作るつもりはないのか?)


確かに、後宮に迎えてはいないが王には正当なる世継ぎがいる。
それも紫四門家の母を持つ公子が…。


だから無理に作る必要はないと分かっている。
最終的にはかの公子を迎えればいいのだと、王もそう思っているのだろう。

けれど、時に考えてしまう。
後宮に迎えないのは、公子やその母の安全を思ってなのか、と――。


王に問いただした所で真意をかたってくれる筈もない。
出来れば、嫡流の血筋をより多く残してもらう為にも、王にはより多くの子を設けてもらいたい。

けれど、骨折り損になるかもしれないな、と思うのはきっと杞憂ではなくて。
とりあえず、己の手元にある四人の妃候補に確定の判を押す事を決めた。





「彩月、何故にお前は結婚せぬ」

『はぁ?』


王の問いに、馬鹿か貴様は…と言いたげな反応を彩月は示した。
先程まで雄掠の後宮問題について頭を悩ませていた彼女に対する問いではない、と分かっているくせに、と心底嫌そうな目で王に視線を送る。

何より、己が“巫女”である事を知っている上での問いに、溜め息と共にどっと疲れが押し寄せてきた。
それを悟ってか、雄掠は苦笑交じりに言葉を続ける。


「いや、縹家の娘はすべからく巫女か生み腹のどちらかだというのは知っている
お前も巫女だから、そうだと…

だが、お前は生娘ではない
縹家の巫女は生娘がその多くを占めているのは知っている……例外もいるのもな

お前は生娘ではなく、“女”だ
……これは私の憶測だが、お前はこれまでに多くの男と褥を共にしている
違うか?」


ビクリと彩月の身体が大きく震えた。
何故王がそんな事に気付いたのかと、恐れすら抱いた。

“女”である、という事を気付いたのは分からないでもないが、多くの、と告げた彼には正直言ってお前は何を考えているんだと思わずにはいられない。


それと同時に、この王の問いにどう答えようかと悩んだ。

正直に話してもいい。
別に話したところでどうなるわけでもない。

それに、王がこうして“己”に対する問いをしてきたのは、名以外では初めてだった。
どうも、己の根幹に位置する問いしか聞いてこないの些か気がかりではあるが、彩月は対して気に留める事なく、王の問いに正直に答えることにした。


『しませぬ……結婚と言うものはほんに、面倒なこと意外他なりませぬからな
縹家にいるならばしていたやも知れませぬ

ですが、男系の強い外では、おそらく生涯結婚しないでしょう』

「そんなに結婚が面倒か?
まあ、私もそう思わなかった事がないわけではないが…」


王の義務の一つでもある婚姻。
それを、仙洞令君である己の前で正直に“面倒に思った事がある”と告げた王に、クスリと笑みが零れた。

だが、彩月は続きの言葉を口にした瞬間、その笑みを消し、嫌悪感に満ちた表情を浮かべる。


『面倒以外なんだというのです?
男は身勝手極まりない

こちらがどれほど誠心誠意を込めて尽くそうとも、それが全くの当然であるかの様に振る舞います
それだけでは飽き足らず、もっと、もっと、と強請る始末……

妊娠中にも関わらず身体の繋がりを求め、女が死ぬ思いで生んだ子を、男児でなかっただけで“姦通罪”を押し付けてこられては、溜まったものではありませぬなッ』


最後は語尾を荒げ、吐き捨てる様に告げた。
まるで過去を振り返る様な口ぶりに、雄略は怪訝に思った。







 

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