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「…くッ……あッはっはっはっはっ!!」

『陛下』


執務室に戻って早々、王は耐え切れぬとばかりに声を挙げて笑い始めた。
それを咎めるかの様に彩月は眼差しを向けるが、彼は猶も笑い続け、とうとう腹を抱えて笑い始める始末。


(こんな男に、王が務まるのか…?)


彩月はとっくりと胸中でそう囁いた。
切れ者かと思えば、時折こうして子供の様に笑ったりする王。

全く不思議な男である。
今までに見た事がない。

自身の憂いを傍目に、王は笑い続ける。
はっきり言って、こんな性格の悪い王でいいのだろうか、と思う。

自業自得ではあるが、こんな男に忠誠を誓った百官を少しばかり哀れに感じた。





「何を笑っておいでですかな?」


丁度その時、霄仲明が執務室に姿を現した。
王の只ならぬ様子に、少しばかり眉根も寄せている。


「ッ…霄か…いい所に来た」


目じりに溜まった涙を拭いながら、王は先程の百官の様子を逐一報告している。
それを何事もなく聞いていた霄であるが、中書令の宣誓にはブッと噴出した。


「そうですか……あの男がッ

ククッ…こちらの思惑通りという事に…気付いていないッ…
確かにこれは傑作ですな……ははッ!」


どちらも似たり寄ったりだった。
仙人であると先日判明したこの男も、結局は王と同類であったのだ。

二人揃って声を上げて笑う辺り、似たもの同士なのだとすぐに分かる。
全く嫌な組み合わせだ、と彩月は心中で毒づいた。


けれど同時に、こうして笑っていられるという事は、何か策があってのことなのだろうと思えた。


『全ては順調、ととってよろしいのですね?』


笑い転げる二人に、彩月は言った。
その言葉に二人の笑みは止み、ああ、と満足げに王は笑う。

ニヤリと口角を上げる様は、これから大きな悪戯を仕掛ける少年の様に生き生きしており、思わず彩月も笑ってしまいそうになる。


『ここまで臣を煽ったのです、必ずや成功して頂かなくては困ります

陛下と霄殿のお手並、拝見させて頂きます』


ここで同じ様に笑えば同類になってしまうと瞳を細めて視線を向け、ツイと霄に一寸視線を向けた後、袂を翻しながら踵を返した。
ゆっくりと退室する彼女に、王は声を掛ける。


「お前も出来た女が要れば直ぐにでも奥宮に入れろ
奥の女には、些か飽きた…」


彼女がこういった言葉を厭うと知っての発言。
ニヤリ、と笑みを貼り付けながら告げる王に、小さな吐息を溢すと彩月は静かに立ち去った。


『心得ました――が、わたくしの目がねに適う女がいれば、ですが…』


去り際に告げられた言葉に、王の笑みは一層深くなる。


「あの女の目がねに適う女だと?
一人いればいい方か…」


奥宮に花が増えるのはいつになる事か――。
王は一寸瞳を揺れさせた。




To be continue...


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