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ゆっくりとした動作で立ち上がると、蓮は正面から巫女姫を見据えた。
警告を告げ、震える身体を叱咤しながら、迷う事なく麗しい巫女姫をじっくりと見つめた後、彼女は力強い声で問うた。


『巫女殿、お聞きしたい』

「何かしら?」

『ここはいったいどこなのじゃ?
始めは地獄かと思うたが、巫女殿がおられるのだから地獄ではないことが分かった
ここは、いったいどこなのじゃ?』

「そうねぇ…時の狭間、と言えばいいからしら」


そう言って巫女姫はまたふふ、と口元を覆いながら笑った。
一見すれば、愛らしい巫女姫がただ笑っているだけなのである。

だが、蓮には『分かっていた』。

目の前にいる巫女姫はただの巫女などでない。
巨大の力を手にした、ある種化け物のような、そんな存在だと手に取る様に理解できた。


(時の、狭間…じゃと?なんじゃ、それは
それに、先程巫女殿が口にした言葉…)


“助けに来た人の力を借りて出た娘はいたけれど、自分一人の力で出られる程の力を得た娘もはじめてね”


(わしの前にもここに娘がいたということか?
この様な一筋の光も差さぬ闇の空間

それにしても、巫女殿が言う“力”とはいったい…)


悶々と思案に耽っていると、不意に巫女姫が直ぐ目の前にいた。

うっとりとした表情で蓮を眺めている。
いや、蓮の瞳を眺めていた。


『何か?』

「いえ、ごめんなさいね
遠い昔の、友によく似ていたから…」


そう言ってまた巫女姫はふふと笑った。
ピョンと軽やかに飛び跳ね蓮から離れると、顔だけを彼女に向け言った。


「ここはね、“縹家”の中にある特別な部屋なの…普通は一族の者以外は入れないはずなんだけど、どうしてか、あなたは『ここ』に呼ばれたみたい、またね」


それからふわり軽やかに巫女姫は飛んで、闇の中へと解けていった。


『あれはいったい、何者じゃ?』
 

フル、と震える身体を抱きしめながら、彼女は心のままに言葉を紡いだ。
巫女姫が最後に零した言葉を考える余裕もなく、ただひたすら、震える身体を抱きしめていた―。



To be continue...


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