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回廊を進む彩月の目に、ある男の姿が目に留まった。

年の頃は二十代後半。
己とそう変わらぬ年の男。

そして、王の即位前にはいなかった官吏。
だが、王が現れたとたん何処からともなく現れ、官吏となり、あっという間に出世した男。

(まいない)に足を運ぶわけでもなく、人を陥れているわけでもない。

ただ静かに、そして着実に出世している男。


「これは令君猊下…」


己の前に来れば、こうして拝礼を行う。
女だからといって己を虐げるわけでもない、だが敬うわけでもない。

ただその地位に対する“礼”だけは必ず行う男。
だが同時に、油断のならない男であり、得体の知れない男でもあった。

そう、まるで“時の牢”で出会った、蒼遥姫の様な…。


人間だった。
触れた事はないが、間違いなく人である。

何より、この貴陽で妖しが化けて出てくるなど考えられない。
妖し如きでは、到底出来るはずもない。

もっと力の強い――。


(……まさかッ!?)


彩月の脳裏を過ぎったのは、ある仮説。
これが真実ならば、あの男の存在も全て紐解ける。

証拠はあった。
蒼遥姫が言っていたのだから。


“その玉座に相応しい王が現れた時、その者は現れる
そして静かに、淡々とやるべき事を行い続ける

いつしかその者は王の右腕となり、王の御世にはなくてはならぬ存在となる”



まさにあの男だった。
そう、まさにあの男を指した言葉。


(まさか……本当に?)


回廊を進み、王の執務室へと続く道をただ真っ直ぐと目指す。
他には目に触れないとばかりに、王だけを見ていた。


『…霄仲明…』


囁いたのは男の名。

だが恐らく、名は偽名だろう。
男の本当の名は、霄。


彩月は直ぐに気付いた。
あの男が誰なのか。

人間でも、妖しでもない。
そしてひっそりと静かに佇む存在。

それ、それは――。


『紫仙………いや、紫霄』


小さな囁きだった。

だが、何よりも重い言葉だった。
まるでそれが真実であるかの様に。

知ってはいけない、隠された存在に彼女は気付いた。






「お気づきになられた様です」

「そうか」


執務室にて寛ぐ王に、先程の男は静かに言った。

だが、王は別段気にも留めていない。
むしろあの女ならば気付いて当然ばかり、と嬉しそうに笑っている。

本当に好奇心をそそられる女だと思った。

初めて会ったそのときから、己はあの女に囚われている。
王はそう悟った。

さて、あの女は自分がこれから成そうとする事に果たして気付くか。

この男の胸の内に生まれた小さな想い。
それが吉と出るか、凶と出るか。

答えは誰も知らない。




To be continue...


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