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――星詠み


仙洞省の一番天辺に上り、夜空を彩る星を読む。

彩月が令君として最初の仕事は、王の世継ぎについてだった。
故に、彼の星と交じり合う、相性の良い星の元に生まれた良家の子女を探していた。

そこで彼女はある事に気が付いた。

子供はいない。
そう聞かされていた。
そして王自身も、それに関して否定はしていない。

だが、どうにも何度も同じ結果が見える。


(……王に、子がいる?)


王の星の元に、小さな星の光を見た。
始めは己の間違いなのかとも思った。

だが、何度繰り返し行っても、それは出た。
小さな小さな、けれどしっかりと輝く綺羅星。

王自身が気付いていないのか、それとも隠しているのか。
とにもかくにも、この事を王に聞く必要があった。

知らないならば、直ぐにも王宮に迎えるべきである。
知っているのならば、何故隠すのか。

そう思って、はたと彩月は立ち止まった。


(あの王が知らぬとは思えぬ…)


そう、あの王が知らない筈がない。
ここ一月の間、彼の様子を宰相会議でずっと見ていたが、かなりの切れ者と彩月は判断した。

その彼が、自身の血筋を継ぐ存在を無視するはずもない。
後宮にも定期的には渡っているが、そこから色狂いという印象も受けない。

つまり子種の無駄打ちはしていな筈だ。
ならば――。


(知っていて隠している……?)


何故そんな面倒な事をするのか。
何より仙洞省や縹家相手に隠し通せる筈もない。

何を思ってそんな面倒極まりない事を。
思いつく限りの理由を考える。
王が隠す理由を。

世継ぎとするには余りに心許ない公子なのか。
それとも、後宮に迎えるには未だ幼いのか。

はたまた、余りに身分の低い女から生まれたのか。

だが、この星の光加減や星回りから考えると、公子の母妃の身分はかなり高い。
彩七家ではない。
紫四門の姫か。

どちらにせよ、王に直接聞くに限る。










早朝、星読みを行った為、彩月は朝議を欠席した。
そのまま出てもよかったが、隈の出来た顔をきゃつらにさらすのも癪だったので、朝議には出ずにそのまま就寝する事にした。

仙洞令君は朝議や宰相会議に出る資格はあるが、他の官吏と違い出席は強制されていない。


縹家は政に関わらぬのが定石

これを理解しているのか、欠席しても誰も何も言わない。
むしろ、目障りな女令君を視下に入れずに済んだ、とのたまうのだから、ここの官吏は本当にどうしようもなかった。


「これはこれは、女狐猊下(げいか)ではありませぬか
女人禁制の王宮に何の御用でしょうか?」


下卑た視線を向けながら、ある官吏が近づいて来た。
ちらりと佩玉(はいぎょく)に視線を向ければ、吏部尚書のものだった。

名前は知らない。
もとより、覚えるつもりも更々なかった。

ならば、自身が頭を下げる必要もない、と泰然とした態度を崩さず、まるで上座から見下ろさんばかりに顎を挙げて佇む。

ちなみに、その男のきな臭い言葉は彩月の心には届いてなどいない。
それが余計気に障ったのであろう。

令君である為、尚書令のいない現状、彼女が王に次ぐ地位にある筈だったが、それが“女”という事が解せなかった彼は、しかめっ面を浮かべる。


『これは、吏部尚書殿……今の刻限ならば丁度政務の頃であろう
か様な所でわたくしの相手になどせずに、政務に勤しみなされ』


“こんな所で悔し紛れの暴言を吐く暇があったら、仕事でもしていろ、この能なし下種がッ”


言葉の裏に隠された彼女の暴言が聞こえてきそうだった。
実際、それを察したのだろう。
ヒクリ、と尚書の顔が渋みを増す。







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