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――あれが新たな令君?

――女の令君だと?

――図々しくも宰相会議に出るなど!

――女に何が出来るッ




王の戴冠式後に執り行われた宰相会議にて、令君席に付いた彩月を目に留めた瞬間、高官から口々に嫌悪感の入り混じった声が上がった。

それを咎めるでもない玉座の王に、心中で溜め息が零れたのは事実だった。
ただ彩月を一瞥して、数拍の後口を開いた。


「そなたが新たな令君か?」


抑揚のない声色に、薄っすらと笑みが零れる。
侮蔑も歓迎の感情も読み取れない声に、いっそ清清しさすら感じた。


(なるほど、王としては悪くない)


そう胸中で囁くとゆっくりと立ち上がり、優雅に優る高雅な所作を持って王の前まで歩みを進める。

その流れる様な歩行に一同は感嘆の声を挙げた。
何より、彼女の美貌に。

官服とも言い切れないすっきりとした装いに、官の冠。
その冠に納まりきらなかった長い長い漆黒の髪が、彼女の流麗な歩と共に(なび)く。

王の口元が薄っすらと上がる。
だが、誰も王に目を向けていなかった為気付く者はいなかった。


『この度、先の令君猊下に変わりまして、仙洞省令君に任じられました縹彩月でございます

陛下のお世継ぎの一日も早いご誕生に、尽力させて頂まする』


それ以外には首を突っ込むつもりはない、と言いたげな言葉に、高官たちはニヤリと笑う。
分際を(わきま)えてはいる様だな、という言い分が手に取る様に分かった。


(この能無しクズ共がッ)


心中で毒付くものの、それを表情にこそ表す事はなかった。
こういう男共は、放っておくに限るのだ。

もとの世界で嫌と言う程、彼女は知っていた。


「面を上げよ」


その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
間近に見る王は、愚王ではないという事がわかった。
賢王、と称するとは違う印象ではあるが。


「彩月か……面白い名だ
縹家家紋、月下彩雲から付けられたか」


自身の名の秘密にすぐに気付いた王。

彩月の口元に薄っすらと笑みが浮かぶ。
気付いたか、と言わんばかりに。


『はい、縹家の巫女である何より証として、大巫女から御自ら頂きました名でございます』

「元の名は?」

『それは、いくら陛下と言えどもお答えできませぬ』


間髪入れぬ断りに、高官たちの声が上がる。
陛下に対する不敬だ、と称して――。


『わたくしたち縹家は神事の一門
そしてわたくしは縹家の巫女

女である前に巫女でございますれば、(おの)が名が知れ渡るのは余りよい気はしませぬ

言霊は、唯人にも人を縛る事が出来ますので――』

「なるほど……相分かった」

『御理解、ありがたく存じまする』


再度、静々と頭を下げると、また優雅に優る高雅な所作で、令君席に戻った。

高官からの即位の祝辞に始まり、新たな王の機嫌と寵愛を受けようと、次々に世辞や先王への苦言が上がった。
それを何を言うでもなく、そうか、と興味もなさげに受け答える王を、彩月はただただ、静かに見つめていた。

この王の手並を拝見せんとばかりに。




To be continue...


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