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「姫様……わたしの蓮姫様

お慕いしております、美しくも気高いわたしの蓮姫様」


あれ以来、少年は毎日の様に蓮の元へ通っては愛を囁き続けた。
学問の合間を見つけては愛を囁き、本当に毎日毎日飽きもせずそれを続ける。

その根性に、流石の蓮も苦笑を浮かべるしかない。


――わたしの蓮姫様…


その言葉を聞くたびに、蓮は胸が締め付けられた。
どうしてかは分からないけれど、少年の声を聞くたびに胸が締め付けられて仕方がない。

どこかで聞いたような――。


“わたしのロザリー”


ハッと我に返った。
瞬間、嫌な汗が蓮の背中から溢れ出てきた。
そして己が何に引っ掛かっていたのかを思い出して、大きな溜め息が零れた。


(何故、今更……)


少年が、少年の真っ直ぐな眼差しと声が、記憶の彼方に追いやったある人と重なった。
己がまだ少女だった頃、たった一度と決めた愛する人。

容姿や仕草が似ていない訳でもない。
確かに、柔らかな栗色の髪が彼の髪色と通じないわけでもない。

だが、根本的にあの人とこの少年は別物だ。

それなのに、何故――?


「蓮姫様?どうかなさったのですか?」


不安げな表情で伺う少年に、蓮はクシャリと苦笑を浮かべる。
本当にこの声に弱いな、とばかりに―。


『何でもない、大丈夫じゃ――』


――   ……


言葉が詰まった。
どうしてか、少年の名を口にすることが出来ない。

少年の名を覚えていない訳ではない。
それなのに、どうしてか言葉にすることが出来ない。

――何故?


悶々としながら、蓮はうっすらと笑みを浮かべるだけだった。







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